背の高い、見るからに頼りになるお兄さんという感じの彼は、映画を見終わった後も長く涙目から戻らなかった。
「きょーくん、そんなに弱いと思わなかった」
声を上げて大笑いしそうになるのを喉元で必死に止めながら、それでも堪えきれない笑いを見せてしまう。
ようやく普通の目に戻ってきそうな彼は私を直視せずに、うるせえと零しながら軽く頭を小突く。
「感動物は弱いんだよ……悪いか」
「何も反応無いよりは全然。むしろ楽しいよ」
それは、自分の興味以外に何も反応を示さない男と長らくいたことによる言葉だと、彼は察した顔をした。
一瞬で戻った目と、それでもそのことに触れずに話を続ける彼の口に、感謝しかなかった。
「っていうか、そう言う莉奈さんだって泣いてたじゃん」
「きょーくんほどは泣いてないよ?」
「そ、そんなことは、……うーん……」
「そもそも私が泣いてるかどうかなんて、見てる暇ないくらい泣いてたでしょ」
笑って押し付けると、彼はぐぬぬと口を閉ざして、またそれに笑ってしまう。
女の中でも特別小さい私より、男の中でも特別大きい彼が泣いてしまったことを随分気にしているのだろう。どうにかして言い訳を絞り出そうとする姿が、面白くて仕方がない。
「ところで。敬語なくなったのにまださん付けするの?」
どうしても身長差のせいで彼を見上げて覗き込む形になる。映画の後何をする予定もなかったので街中をふらついているのだけれど、その道のど真ん中で彼は歩みを止めた。
溢れる言葉は相変わらず無いが、口はパクパクと動いて止まらない。また可笑しくて笑ってしまう。
なかなか現実に戻ってこない彼の後ろや横を避けて歩く人々が目に入る。何人かは気にも留めない様子で、何人かは邪魔だと怪訝な様子で歩いていき、私は呆れたような微笑ましいようなため息を吐いて、彼の手を取ってまた目的もなく歩き出す。
「何をそんなに考えるのよ」
「い、いやだって……その……」
「何よ。はっきり物を言わない人は嫌い」
うぐ、と彼の喉元で声がしたのが聞こえた。また笑いを堪えて、ちょうど目に入った公園のベンチに座ると、彼は一瞬迷いを見せてから隣に座った。
「で? なんでさん付け?」
隣に座ると幾分か視線が近づく。随分と彼は足が長いんだと実感する。
歩いて日を浴びたからでは言い訳にならないほどの顔の赤さを見て、また面白がって早く答えろと催促をする。
「――だって、呼び捨てとか、ちゃん付けって、本当に女の子と仲良く話してるんだって実感して、恥ずかしいじゃん」
目を随分泳がせながら答えたその言葉に、今度こそ堪えきれずに吹き出して、声を上げて笑う。
「おま。きょーくんはそもそも私を男か何かだと思って話してるのか」
「い、いやそういうわけでは決して、」
「っていうかお前は乙女か」
「立派な成人男性です!」
「これだからオタクは」
自分もオタクだということを棚に上げて突っ込むと、彼は突っ込み返さずに顔を隠すだけに終わった。
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