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ネビルの待つコンパートメントに戻り、しばらく汽車に揺られる。私のクイーンの喉元にネビルのナイトの刃が届きかけたチェス盤へ、ふっと影が落ちた。
「えっ」
「あ、マルフォイだ」
コンパートメントのドアについた窓からドラコがこちらを見ていた。のほほんとしたネビルに反して開いた口が塞がらない。もしかしてここに座る──わけじゃないか。荷物は持ってない。じゃあ話に来たのかな。ネビルを横目で見てどうしようかと考える。とりあえず外に出たほうがいいかな。そこまで考えて立ち上がりかけるが、腰を浮かせたまま止まる。
「うわ、なにして……」
ドアの外に立つドラコは息を吸うように少し顔を上げ、そして下ろすと同時にあっかんべっと舌を出した。その仕草に少し呆れるけれど、同じくらい内心で驚く。そんな子どもぽいことする人だっけ。私が見たことなかっただけかな。ドラコって結構カッコつけだから。ハリーにはしてたのかも。
そんなことを思いながら、座り直す。ネビルへ「どうしようかあの人」と話しかけようとして、向けた視線を思わず彼に固定した。
「え……ネビル? なにしてるの?」
「気にしないで」
こちらはこちらでいーっと歯を見せて威嚇するような顔をドラコへ向けていた。歯を食いしばったまま喋ってるけど、いや気にするでしょ……二人してなに? 初めて見たんだけど……。
様子のおかしい二人を交互に見る。なに、この空間……怖くすらなってきた。完全に置いてけぼりだ。
ひとしきり睨み合って彼らは満足したのか、ほとんど同じタイミングで顔を元に戻した。
「あっ帰っていった」
ドラコはやたら尊大な態度で帰っていったけど、ほんの数秒前までしていたあっかんべの顔を私は決して忘れていない。レアだったなぁ、SRくらいかな。
「なんだったの、今の?」
「さあ?」
レアといえばこちらもだ。四年間一緒にいたのに初めてだったもの。SSRはある。いーっとしていたネビルは今はもうしれっとした顔をしている。これはこれで珍しい。
「僕は仕掛けられたから仕掛け返しただけだよ」
「お、おお、そっか……。なんていうか……強かになったねぇ」
「誰のおかげだろうね」
「スネイプ先生かな」
「エレナだよ」
きっぱり断言された。やだ、悪影響じゃん。お祖母様に怒られないかな。
……というか、なんか変な感じだ。今の彼らのやりとり、やけに距離が近かったような。親しいとはまた別な感じだけど。あっさり私のクイーンをかち割って駒を進めるネビルをじろじろ見る。
「……もしかして知ってたりする?」
「なんの話?」
「いやほら今の、その……マルフォイのこととか」
「知らないよ」
いつも通りの調子で話しているけど、なんとなく嘘だと感じた。私が口を噤むと、ネビルは「教えてくれるの?」と白いポーン片手に小首を傾げる。な、なにこの強キャラ感。なにもかも知られている、気がする。ハーマイオニーの情報源ここなんじゃない? ドラコがボガートのこと知ってるのも、まさか──いやまさかね。それは考えすぎ……え、考えすぎだよね?
私の返答を待って流れる沈黙に、なぜだか首の裏側をチクチクと刺されているような気まずさを感じる。
「……聞いてくれるなら」
所在なく小声で呟くと、ネビルは瞳を蕩かして心底嬉しそうに「もちろん!」と笑った。その笑顔に『なんとなく』が『絶対』に変わる。やっぱり悪影響だったなぁと思った。
「じゃあマルフォイとは昔からの知り合いだったんだ」
「思い出したのは最近なんだけど、そうなの」
ドラコと昔会っていたことやホグワーツで再会してからのことを話す。ネビルは「全然知らなかったなぁ」とわざとらしいくらい驚いた声で言った。話してる反応的に七割くらい知られてた気がする。
「ネビルにハーマイオニー……まさかまだ知ってる人いるとか言わないよね?」
「ジニー」
「ジニー?!」
予想だにしていなかった人物の名前がだされ声が裏返る。彼女はドラコが私のお見舞いに通っていたところ、それから三年の、行きのホグワーツ特急で話しているところを見てたらしい。
「たまに三人で今はどうなってるのかなとか話してたんだ」
「あ、そう……」
ネビルはにこにこと朗らかに言う。私とドラコの仲なんてわざわざ集まって話すことかなぁ……いや、元はと言えば私が隠してたのがいけないね。
じゃあネビルとハーマイオニーとジニーの前だったらドラコの話しても嫌がられない、と思っていいのだろうか。そう考えるとちょっと嬉しいかも。気が楽になったというか。
「そうそう。迷路でさ、ボガートに会ったんだけど──」
ついでに第三課題でなにがあったかも話せば、ネビルの顔色はコロコロ変わっていく。ドジっ子ボガートの話は大ウケだった。これ十八番にしようかな。迷ってたことをぶっちゃければ呆れたような哀れむような目で見られた。
叔父さん伝いで聞いたクラウチの企みやヴォルデモートの話もした。この一ヶ月、なにかを察してかネビルはなにも聞いてこなかったから。彼はあの日医務室にいたし、気になってたはずなのに。
ネビルはファッジとダンブルドアの口論の場にいたこともあって、ヴォルデモートが復活したことは疑っていないらしい。心強い。ネビルが信じてくれると分かっただけで五千人力くらい頑張れそう、私が。
「エレナが生きててよかったって本当に思うよ──でもあれってシレンシオで防げるものなの?」
「それ。絶対無理だと思うんだよね」
でも今息をしてるのも防げた結果だし……。
納得いかないねと二人で唸る。ダンブルドア直々に伝えられたし他の可能性なんて思い付かないから信じるほかないのだけども。
「魔法って不思議だね」
「ねー」
結局、結論はこれになった。ねー。
チェスとリバーシは負けたが爆発スナップとゴブストーンは勝った。二勝二敗なので来学期に持ち越しだ。将棋、将棋なら勝てるはず。夏の間に売ってないか探してみよう。
汽車をでようとすれば「エレナ!」と背後から呼ばれる。ジョージとフレッド、それからそのさらに後ろににやっとするハリーがいた。なんて言っていいか分からないというまごまごした顔の双子におかしくなる。今日はみんなの滅多に見れない表情が多いなぁ。
「セドリックのプレゼント、特別いいの選んでね」
「それはうん、もちろんだけど──」
「あの──ありがとう」
ボソボソ消え入るような声だったが、しっかり聞こえた。ハリーが堪えきれないと吹き出す。分かる、これはたしかにニヤッともしたくなっちゃうね。
「開店したら社割でよろしく」
「そんな! お金なんて払わなくていいよ!」
「いやそれはちょっと……」
おちゃらけた二人に『おいおいそれはないぜ』『友人割増で倍額払ってもらわなきゃ』とか言われるのを期待してのボケだったのに。殊更ショックを受けた顔で言われてしまった。私のボケ不発に終わること多くない? 分かりづらいのかも……。
夏休み前最後の機会だからか、普段以上に視線が突き刺さる。ダンブルドアが昨日ヴォルデモートが復活したとか言ったから、みんな私やハリーを疑っているのだろう。果たしてこの中の一体どれだけが二ヶ月後には敵に回っているのか考えるだけでも頭が痛くなってくる。けれど、大好きな人たちが傍にいてくれるなら怖いことなど何一つない。
視線の合間を楽々くぐり抜け、キングス・クロス駅の壁をすり抜ける。
「じゃあ新学期に!」
「手紙書くね──あ、」
ネビルと別れ、駅の入り口に叔父さんが立っているのが見えたので駆け寄る。普通のマグルに溶け込んだ服装だ。ただ鮮やかな山葵色のハンチング帽だけが浮いていてかなり目立っていた。今日のファッションの譲れないこだわりなのかな。
「お父さんは?」
「うちでヘレンを宥めているよ」
宥め……付きっきりで宥めなきゃならない精神状態。眉間に皺が寄って、自然と険しい顔つきになってしまう。これから一戦起こる覚悟で帰らなきゃな……。
「車を借りたんだ、裏路地に停めてある」
「へえ、免許持ってるんだ」
「……」
返事はなかった。え、聞こえなかっただけだよね? 視線が全然合わないのも他意はないんだよね? 気付いてないだけだよね?
……もしかしたら一戦交えるより先にしなければならない覚悟があるのかもしれない。
ところで叔父さんって騎士団の仕事で忙しいんじゃないのだろうか。そもそも叔父さんとっくにダンブルドア側だって割れてそうなものだけど、闇祓いとして魔法省で働いていけるのかな。
「来年はどうするんだ?」
「どうってなにがぁ?」
車の場所へと歩きながら、喧騒に負けないように少し声を張る。溢れかえった人の群れにアンブルが興奮して籠の中で羽ばたいた。落ち着け落ち着け。広くないんだから……そろそろ新しい檻にしようかな、取っ手のところも錆てきたし。いやでも魔法で直せそう、この際改造してみる? 検知不可能拡大呪文、学校始まったら練習してみよ。
「シリウス、助けるんだろう?」
「ああうん、……、……え?」
え?
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