15



 楽しいクリスマスが終われば、年が明けるのはあっという間だ。

 私は、我が家のファースト・フッターにはニューイヤーメガネを強制装備させる心算でいた。なので我が家のドアベルが鳴るその時を虎視眈々と待っていた。日付が変わるピッタリに鳴った来訪者の報せに意気揚々とドアを開け、構えていたメガネは速攻で背後に隠した。なにせ、真夜中の戸口にニコニコで佇んでいたのはアルバス・ダンブルドアだったから。
 ダンブルドアは、ファースト・フッティングの慣わしに従ってか、わざわざ髪を真っ黒に染めていた。そんな気合いの持ち主が、果たしてニューイヤーメガネを嫌がるか。答えは当たり前にノーである。後ろ手に隠したニューイヤーメガネは流れるように呼び寄せられ、そのかわりとばかりにファイア・ウイスキーのボトルにショートブレッド、そして一シックル硬貨と石炭の欠片を持たせられる。手馴れた強盗仕草だった。鮮やかに強奪した浮かれぽんちメガネを躊躇なく掛けたダンブルドアは、呆気にとられっぱなしの私を「ホグマニーへ行こう」とルンルンで家から連れ出した。
 結論として、ホグマニーはとても楽しかった。私とダンブルドアは、焼き立てのステーキパイを頬張ったり見知らぬ人達とウイスキーで乾杯したり、テムズ川に飛び込む人々を野次ったり花火を見たりと、お祭りを明け方までたっぷり満喫した。なおニューイヤーメガネは、その間一度として外されなかった。酔っ払いの群れに揉みくちゃにされても死守していた。英国魔法界で最も偉大な魔法使いの顔に燦然と輝く1999。複雑な心境ではあったが、まあこれはこれでいいか、本人は楽しそうだし……と途中から開き直って自分も同じメガネを掛けて、記念のセルフィーを撮った。
 我に返ったのは、動物もどきの指導にいらしてくれたマクゴナガル先生へ何気なく写真を見せてからだ。新年早々、絶句させてしまった。私の感覚、どうやら麻痺してきているらしい。



「――というのが、新年の小話になります」

 一連のエピソードを語り終え、おやと目を丸くする。アイスブレイクとして例の写真を片手に語ってみたのだが、肩の力は全然抜けなかったらしい。真向かいに腰掛ける彼――ルシウス・マルフォイは、マクゴナガル先生同様やっぱり絶句していた。うーん、話題選び間違えた? でも季節にあった雑談だし、そんな悪くないと思うんだけど。
 私はとりあえず写真を懐にしまい、ホグマニーの方を掘り下げてみることにした。

「ホグマニー、分かります? 大晦日のお祭り。ロンドンとかエディンバラとかだと特に大きいのやってる、あの」
「存在は知っている」
「私、ホグマニーってホグワーツ入学前に一度だけ参加したっきりで。叔父さんと一緒に家族で。いやぁ、都会のお祭り楽しかった! ルシウスさん行ったことは?」
「いや……年末休暇は旅行で国外にいることの方が多い。……ここ数年は、自宅で過ごしているが」
「あ〜旅行してそ〜。そうそう、日の出頃にはみんなでオールド・ラング・サインを歌ったんですけど、ダンブルドアってば群衆の中で一番声出てて、超目立ってました」
「実にダンブルドアらしい話だな。ご健在のようでなにより」

 ルシウスはちょっと鼻で笑ってカップを傾けた。返事も端的で表情もまだ固いが、少しは緊張も解れてきているようだ。思惑通りいったことに気を良くして、私も紅茶を一口飲む。

「それにしても、ダンブルドアの話って誰にしても一瞬空気がこう……ピリッとするというか。なんでなんでしょう?」
「それはまあ、当然だろう」
「ええ? ああでもたしかに、あなたがダンブルドアのほのぼのエピで大ウケしてても一体どの立場で? ってなるかも」
「……」
「……あの、黙るのやめてくださいよ」

 このくらい『ハハハ呪うぞ小娘』で一蹴してくれたらいいものを。この人、私に対する負い目があるのか、ちょっと皮肉るだけで蒼褪めた顔して黙り込んでしまう。文面のやり取りの時でさえお得意のはずの嫌味がとんと鳴りを潜めるのだから、困ったものだ。正直言って会話しづらい。なにせ我らホグワーツ生は、基本嫌味と煽りで会話のラリーをする文化で育っているから。特にハリーやロンの瞬発力なんてもう別格だ。私はこれでもかなり思い遣りがある部類だと自負している。この人だってOBのくせにな……。

「あなたのご子息はこういう時わりとしっかり言い返してくるんですけどね」

 呆れ半分困り半分で呟くと、ルシウスはぎくりと体を強ばらせた。さあ閑話休題。本題に入るとしよう。金装飾の施されたティーカップを脇に避け、机の上で手を組む。

「純粋にお尋ねするんですけど、邸宅のお庭で運転の練習する息子さんを一体どういう気持ちで見てたんですか?」
「……それは、それはもう――……すまない」

 含蓄のある沈黙で、様々複雑な感情を呑み込んでいることは、なんとなく伝わった。だからと言って見逃してはあげれない。じろりと睨めば、ルシウスは大袈裟なまでに竦み上がった。

「車を買ってあげるって……あんなクラシックカー、とっても高かったんじゃ?」
「あれはまあ、精々、そうだな――スリザリンのクィディッチチーム全員にファイアボルトを二本ずつ以上贈ってあげれるくらいだったかな」
「…………はあっ?!」

 軽い気持ちで尋ねたつもりが数秒フリーズする。正気に戻ってギョッと目を剥く頃には、ルシウスは紅茶のおかわりに手をつけていた。おいなにをそんな優雅に。車や箒に疎くとも、ファイアボルト十四本分が法外な総額だろうってことくらい私にだって理解できるぞ馬鹿にすんな。

「ファイアッ……ええ? もう普通にファイアボルト一本買ってあげた方が絶対良かったでしょ……!」
「何故?」
「だってドラコは飛ぶのが大好きだし!」

 私たちの代で、ドラコが幼い頃から自宅の庭を箒で飛び回っていた――そしてヘリコプターと衝突しかけた――という鉄板エピソードを知らない者はいない。何故なら一年生の頃に彼自身が声高らかに散々言って回っていたからだ。とこのように他寮の赤の他人ですら知っていることを、実父が知らないとは言わせない。

「それは知っているが」ルシウスは心からの当惑を見せた。

「しかしプロ選手でもあるまいに。今更必要とは思えない」
「えっ?! い、いやまあそれはそうですけど……え、なんでそこだけそんな冷静なの? なおでもってこわ! 必要の可否で言うならクラシックカーこそ不要でしょ。知ってますか? 車って壊れるんですよ?」
「消耗品であろうと細部まで意識を配るというのが一流というものだ」
「(やばい、うるさすぎる)」

 ガチやかましいなこの貴族。私が慄いているせいなのかルシウスは急に調子を取り戻したようで、なんだかやけに生き生きとしている。十歳ほど若返ってすら見えた。

「あ、家族共用っていうならまだギリ納得できるかも……?」
「は、笑えない冗談だ。誰が好き好んであのようなもの」
「本当にどの口で言ってるんですか??」

 新たな発見なのだが、遠慮がなくなったらなくなったでかなりムカつくかもこの男。理解を示そうと歩み寄ったのに、こちらの気遣いを呆気なく無下にしてくれる。そりゃ私だって絶対ンなわけないだろうなって思ったよ。でも言い方ってものがあるよね。この先この人がマグル関連で何を言ってももうギャグにしかならなくなってしまった。

「は〜ファイアボルト十四……十とさらに四……。あなたがどれほどの大富豪だとしても、一友人と交友を深めるためだけに遣わせてやるには、いくらなんでも過ぎた額でしょう」
「それは――一理あるかもしれないが」
「かもじゃない五億理あるわ」
「……だが、ドラコは喜んでいた」
「(あー……)」

 言いづらそうに押し出された言葉で思い出す。この人が負い目を感じているのは、私に対してだけではなかったのだった。自身のせいで危険に晒して苦しめて、さらには命の危機にも瀕したたった一人の愛息子だ。平穏を取り戻した今、反動余って溺愛に拍車が掛かるのも分かる。……とはいえ、やり過ぎだ。鈍痛を訴えるこめかみを揉みほぐすように顔を手で覆い、ふかふかのソファに背中を深く沈める。

「(……もし生きてたら、私のお母さんもこうなってたりしたのかな)」

 ルシウスと母は全く似ていないはずなのに、なぜか唐突に母の姿が重なる。さすがにこんなめちゃくちゃなお金の掛け方はしないだろうが――しかし一度そんなことを考えてしまうと、途端になんと言葉を掛けるべきか分からなくなってしまった。家族愛の話題とか、経験値が足りなすぎて手に負えない。
 どうしたもんかなぁと参った気持ちで、吊り下げられた煌めくシャンデリアをぼんやり眺める。

「……ドラコって私以外に友人とか……あるいは婚約者とか、いないんですか?」

 『運命の彼女』とは、どういう経緯で知り合ったんだったか。同じ寮、後輩だったことくらいは覚えているが……それ以外の情報は記憶に乏しい。ジニー達と同学年だったかすらも定かではない。他寮の生徒って知り合いいないとやっぱり見ない。もっと意識しておくべきだった。
 ルシウスは僅かに顎を持ち上げ、むっと眉根を寄せた。私の質問を無礼極まりないと感じているような顔つきをしていた。

「無論、いたに決まっている。婚約者程度……」
「へえ、過去形」
「……大戦の影響で大抵は――軒並みともいうが――破談となった」
「ああ、なるほど……。でもファイアボルト十四本が余裕の財力がマルフォイ家にまだ充分あるって知れば、散った縁談も戻ってくるのでは? 悪評だってだいぶ落ち着いてきたし」
「悪っ……そもそも、特段吹聴する程度の額でもない。品性に欠けるし、私の美学にも反する」
「あなたの美学は知ったこっちゃないですが、まあ品性はたしかにそうかも。でもとはいえ常識外れの額だと思うけどなあ……その辺の感覚含め、私たちってやっぱり相容れないですね」
「ああ」

 ああじゃねえよ。言ったのは自分だけどそうしみじみされるとなんか鼻につく。やっぱりこのおじさん、ちょっとショゲてるくらいが一番接しやすいかもしれない。そろそろ腹が立ってきたので、伸び始めている鼻っ柱を元の殊勝な長さへ戻してやることにした。

「私が最初に驚いた時、あなた涼しそ〜な顔をしてましたよね。それはもう、必要以上に」
「……それが?」
「それが答えってことですよ。吹聴“しない”んじゃなくて、“できない”んでしょう?」

 財布からコインを数枚落とした程度と本当に思っているならば、私の過剰な反応に引くはず。引かなかったということは、それなりの出費をしたという自覚自体はあるわけだ。金庫に致命的、とまでは遠く及ばずとも。
 つまり、ファイアボルト十四本分は貴族様であってもそれなりには吹聴できる額。けれどそれを何に使ったかを明かすのは、きっとこの人のプライドが許さない。

 この程度お見通しですよと意地悪く目を細めると、たちまちルシウスはちょっと草臥れたおじさんに早戻りした。情緒が不安定だ。原因は私だけど。
 だがそういう萎びた姿を見てると、今度はやり過ぎたかもという罪悪感が湧いてくる。私も私で調子に乗りすぎたっていうか……もしかして私たちって少し似てたり……いやいやまさかね。
 嫌な想像は置いておくとして、一先ず空気を変えようと咳払いをしてみる。

「そうだ、内訳を公表しづらいなら寄付したって名目にしたら? 実際、支援自体は各所へしてるんでしょう?」
「まあ、それなりには」

 お詫びがてらの提案に、ルシウスは少し考えてから、「いや」と首を横に振った。

「いいんですか? 名誉挽回になるかもですよ?」
「金で買える上澄みの名誉など、今更あったところで。それに、我々はもう多くを望んでいない。家族で静かに……今の願いは、ただそれだけだ」
「……そうですか」

 切実さを乗せた重たい声に、私も口を噤む。俯きがちのせいか彼の顔の皺はより濃く刻まれて見え、つい先程までの威勢がまるで嘘のようだった。

「それを望むなら、尚更、私との関わらせ方を考えた方がいい」

 そう切り出すと、ルシウスは返事とも唸りともつかない声が返してきた。からかいや意地悪は抜きで、私は真摯な気持ちで訴えかえる。

「一命を取り留め、傷は完治し、経過は良好。事件から一年が経ちつつある現在でも、彼は健康そのものといえるでしょう。とはいえ、あの薬はまだまだ未知数です。万が一でも今後記憶が戻ってしまったりしたら、治した傷がどうなるか分からない」
「……ああ」
「私だって、彼とは程よい距離のおともだちくらいではいたいんですよ。せっかくあなた方の許可もいただけたことですしね」

 これまではひと仕事終えた心地で浮かれて調子に乗っていたけれど、自分を甘やかすのはそろそろおしまいにしよう。もう十分楽しめた。

「……エレナ・ワイアットなんて、ドラコ・マルフォイの人生には本来微塵も必要ない」

 当たり前の事実を口にしただけなのに、途端に喉を絞るような苦しさが襲ってくる。そんな自身の女々しさに嫌気がした。大体、社会人になってからの友人なんて、半年に一度会えたらいい方なのだ。私たちが目指すべきは、きっとそういう距離感だった。隙間を許されただけで満足していれば良かったものを、ずるずるといつまでも手放せなくて、本当、つくづく浅ましい。

「ドラコにはもう辛い目にあってほしくない。……うん、そう、そうだ」

 もし動物もどきの習得がめちゃくちゃ上手くいけば、秋からはホグワーツ勤務できるし自然な流れでこのルートに戻れるかもしれない! まあ成功の目処はまだ全然立ってないのでこの線は期待できないのだが。

 決意を固めていれば、気が付くとテーブルがやけに静かになっていた。あれっと思ってルシウスを見ると、彼はものすごく何か言いたげにしていた。あからさまに何かが腑に落ちていないその様子に、私も目を眇める。

「なにか異論が?」
「いや、いや、異論はない、全面的に同意だ。しかしきみは、……きみは本当にそれで構わないのか、と」
「言ってる意味がわかりません」
「だから、その……きみは、いいのかと」
「いいに決まってますよ?」

 ルシウスは目に見えて困っていた。はくはくと言葉を選んでは躊躇って、そわそわと落ち着かない。なんなんだ。ドラコが健康で幸せで、悪いことなんてある? 発言の意図が本当に読めなくて私も首を傾げるものだから、私たちのテーブルには今やなんとも言えない空気が漂っていた。

「えーっと……下手に記憶を刺激したら、どうなるか分からない。だから私とドラコ、これからは距離、置く。もっと普通のおともだち、なる。記憶が戻らないように。だから今後はバカ高いマグル用品とか不要、論外。オッケー? よしオッケーですね。分かったら二度とあんなオモチャ買うなよ。それじゃ解散で!」

 顔色は晴れないけど、黙っていても埒が明かないのでもう無理矢理まとめる。この釘が刺せただけでも今日の会合の意味は十分あった。はずだ。

 硬い顔をしたままのルシウスが頷く。それを確認し、私はさっさと帰り支度を始めた。ルシウス指定で赴いた店だったが、紅茶の美味しい素敵な喫茶店だった。けれど畏まったこの空間は私にはあまりに非日常で些か肩が凝る。同席しているのも気心が知れた友人はともても言えない相手だし。お腹空いたな、ジャンクなものが食べたい。バーガーでも食べて帰ろうかな。

「……ところで」ルシウスが恐る恐るといったように話し始める。

「……その、あー……六月に、ドラコの成人祝いを行おうと思っているのだが」
「成人したのは一昨年では?」
「一昨年も昨年もその――なにかとあっただろう。きちんとしてやれなかった。少しは落ち着いてきたし、だいぶ遅くなってしまったが……今年こそは盛大にやってやりたい」
「はあ。いいんじゃないですか?」

 今年こそ盛大に。そうか、そういうものか。思ったままにぼんやり実のない相槌を打つ。
 たしかに、ドラコが成人したのって叔父さんが死ぬ直前――つまりダンブルドア暗殺計画の真っ只中だったから、とてもお祝いムードにはなれなかっただろうな。お祝いパーティ、いいことだ。ドラコもきっと喜ぶだろう。

 しかしこの人規格の『盛大に』って、なんかもう聞くだけで怖い。一体何をする気だろう。ファイアボルトを百本燃やしてキャンプファイヤーとかするのだろうか。盛大というくらいだからそのくらいいってもおかしくない。日本クィディッチチームの悪しき伝統に倣うつもりか? そんな環境汚染今どき流行らないのに。

「――それで、どうかね?」
「はい?」

 なんて与太いことを考えていたところに突然尋ねられて、目を瞬かせる。ルシウスが妙に迫真の表情をしてごくりと唾を飲むので、なんとなく私も自然と背筋を正した。

「……もし、きみも、都合が良ければ――?」
「……はあ?!」

 派手に裏返った声のとおり、愕然とする。

「まさか私、いまパーティーのお誘いされました? ドラコ・マルフォイの成人パーティへ? 私に来いって?」
「……」
「いい加減にしろこのアンポンタン」

 うっかり口が滑ったがこのくらいの暴言は許されるはずだ。だってほんと信じらんない。ファイアボルト百本お焚き上げの提案をされた方がマシなことあるんだ。

「祝いの席に友人を招くのは、普通の範疇だと思うが」

 ルシウスがしどろもどろでめちゃくちゃ目を泳がせながら、無茶な言い訳で抵抗してきた。おいジタバタするな。「そりゃ、普通ならそうでしょうけど」私は途方に暮れながら顔を歪める。

「私たちはその規格に収まる例ではないし、そんなことしたら距離を置くどころか――ねえ今日のやり取りなんだったの? もしかして会話中全部寝てた?」
「分かっている! 君が何を言いたいかは十分理解しているし、私も妻も君を招くことに決して思うところがないわけではない。……しかし君がいたら――ドラコはきっと、なにより喜ぶだろうし」

 なにやらもにょもにょぐだぐだしている目の前の男に、頬が引き攣る。でたよ、『喜ぶ』……。肩身狭そうに縮こまってこちらの返事を律儀に待つルシウスを、私はなんとも言えない気持ちでちょっと眺めた。なんかもう、呆れも怒りも通り越してしまった。

「せっかくのお誘い大変光栄ですけれど、とても都合はつきそうにありませんねえ……」
「ああ、そうか……そうだろうな」
「……」
「……」
「……あのですね、親バカも大概にしないとマジで今度こそ身を滅ぼしますよ」

 今日何度目かも分からない疲れきった溜息が落ちてしまう。それでも『このボンクラ金銭感覚ポンコツ見栄っ張りもはや親バカの親抜きおじさんがさあ……』という火の玉ストレートを飲み込み、かわりに最大限の忠告を絞り出す。私なりの手心だ。この人自身はあんまり来てほしくなさそうなのに、息子のためにと誘ってくるのは、まあ、めちゃくちゃ健気だなとうっかり絆されてしまったので。

 でも、ここまで息子が気に入ってる相手をまだこんなに嫌えるって純粋にすごい。普通は多少絆されない? 今の私みたく。鋼の意志をお持ちなのは結構なことだ。とはいえその意志の強さは是非もっと別の方向――息子の将来とか――でしっかりさせていただきたいものだけど……この調子じゃ望み薄だろうな。額の汗を拭う白い顔のルシウスに、なんてことを思う。

「(……私自ら『彼女』へ会いに行って、様子を探って手回し、とか……するべきなのかな)」

 一瞬過ぎった考えをすぐに打ち消す。いくらなんでも下世話でお節介すぎる。それになんかなんとなく気が乗らないというか――それに私が変に介入せずとも、そのうちきっとなるようになるはずだ。だって彼らは運命の二人なんだから。
 

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