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どこをみてもローブローブローブローブ……つまり魔法使いや魔女と思われる人ばかりだ。入り口付近には大鍋の店がある。にんまりとした顔の叔父さんがさて、と声を大きく張り上げたことで意識が引き戻される。
「まず、最初は何が欲しい?」
そう聞かれて急いで買い物リストに目を走らせる。最初は教科書……いや、鍋を先に買って簡易的にトランク替わりにする? フクロウも見てみたい。悩む私を叔父さんは楽しげに見下ろしている。手持ち無沙汰に手の中の杖をくるくると遊ばせていた。
……ああ、欲しいもの。やっぱり一番はこれがいい。この世界の一員の証ともいえる、それ。
「杖。最初はそれがいい」
「よし、ならオリバンダーの店だ!」
古ぼけた木製のドアを押し開けば軽やかなベルが鳴った。奥の棚から、目の大きい嗄れた老人がひょっこりと顔を出す。
「エドガー! いらっしゃい、その子は……もしや娘さんかな?」
「まさか! 弟の娘でね。今日入学届けが来たんだ」
「なんと。それは喜ばしい」
最高の杖をお探ししなくては、と老人は嬉しそうにカウンター前へと立った。ギョロリとした双眸で私を見下ろす。ハリーも言ってたけど確かに少し不気味かもしれない。銀の瞳は水晶のように透けていて見つめられているとなんだか居心地が悪くなってくる。
「さ、杖腕をだして」
「えっ? あ、利き手のことですか?」
「そうですとも。さ、だして」
左腕をそろそろと差し出せばガッと勢いよく掴まれる。オリバンダーさんは私の腕をピンと伸ばさせると、今度は身体の寸法を測り始めた。魔法をかけられた巻尺はしゅるしゅると動き回り一人でに寸法を手際よく測っていく。オリバンダーさんは杖について色々語りながら棚からいくつかの箱を選別していた。
「まずはこれ、桜の木、ドラゴンの心臓の琴線。三十二センチ、やや脆い。さあ振って」
「あ、はい──」
「うぅむ、違うな。次はこれ。ハナミズキ、ユニコーンのたてがみ。二十五センチ、振りやすい」
一本目は少し腕を上げただけで取り上げられてしまった。まだ返事もしてないのに! オリバンダーさんはそしてはい次と杖を抜かれたままの私の手の中に次の杖を収めてくる。よし、今度こそ。奪われる前にと半ば意地になりながら素早く振り下ろす。しかし杖先から勢いよく吹き出た白い煙に噎せ返る。鼻につくクセの強い匂いだ。
「なるほど……アカシア、不死鳥の尾羽根。二十九センチ、非常に頑固」
「うわっ!」
今度は棚中の箱が勢いよく飛び出してきた。そのうちの一つが向かって飛んできたものだから慌てて横に飛んで避ける。オリバンダーさんはからからと笑いながら杖を振って箱を元の場所へと収納して行った。
「すみません……」
「いいんですぞ、よくあることじゃ──しかしこりゃいかんな。ならこちらはいかがですかな? 樫の木、ユニコーンの毛。三十センチ。よくしなる」
若干自信を失いつつも渡された杖を握りしめ、その瞬間に今までとの違いにすぐ気付く。渡された杖は指先に吸い付いているかのようによく馴染んだ。すべすべとした感触に驚きながら軽く振ると、すると小さな光がぽわぽわと溢れ出てくる。雪のように舞うそれは床に届く前にキラキラ輝きながら空中へと溶けていった。
「決まりだな」
後ろに立っていた叔父さんがにっこり笑った。
私は鍋屋に、叔父さんは本屋にと、一旦二手に別れることになった。私に鍋を選べるとでも……? まだ本の方が探せそうだと思ったが、「エレナじゃ持てないだろう」と言われてしまってはそれ以上反論することはできなかった。
リスト用紙と睨めっこしながら鍋の積まれた通路を歩く。大鍋は錫製の標準二型……どれだ……? 首を上げて目を細めた。どれも一緒に見える。
「きみ、一年生? それならピューターだよ」
背後から唐突に話しかけられ肩を跳ねさせた。パッと振り向けば声の主の男の子は「ごめん、驚かせた?」と申し訳なさそうにこちらを窺ってくる。
「……ううん、大丈夫。それよりピューターっていった? どれ?」
「この上だよ。取ってあげる、ちょっと待ってて」
邪魔にならないように端に避けて、こっそり彼の顔を見る。この爽やかな笑顔の可愛い好青年は、もしかして。
「はい、とれた!」
「あ、ありがとう……ええと、」
もしやと思案していれば、嬉しそうに彼がこちらへ向き直る。渡された大きな鍋を両手で受け止めながら礼を言えば色素の薄い灰色の瞳がくしゃっと細められた。
「僕、セドリック。セドリック・ディゴリー。きみは?」
「……エレナ・ワイアット。よろしく、セドリック」
まーじか。この人……そっか……『セドリック』といえば真っ先に思い浮かんでしまうのはあの『結末』だ。少し複雑な気分になりながらそれでもなんとか口端を上げて笑顔を取り繕った。セドリックは壁にもたれて雑談の姿勢をとる。うーん、さまになってる、イケメン。
「エレナは今年からホグワーツ?」
「そうなの。セドリックは……」
「僕は今年で三年目だよ」
私がマグルだと知ると彼はホグワーツについて色んなことを教えてくれた。寮は四つあって、ホグワーツではクィディッチというスポーツが人気なんだ、ということなどなど。話の大半はクィディッチの話だった。もう彼のおかげでルールも完璧な気がする。
「エレナーそろそろ行くぞ!」
「はーい! 色々ありがとね、セドリック」
「うん。じゃあまた、九月一日に!」
出入口の扉から顔を突き出しながら叔父さんが私に声をかけた。叔父さんは歩きながら「もう友達が出来たのか」と言う。友達。改めて言われるとなんだか少し恥ずかしいが、やっぱり嬉しい。
「ハッフルパフなんだって」
「私の後輩だな。彼に寮のことをきいたのか」
「うん、私はどこになるかな」
叔父さんハッフルパフだったのかと思いながら四つの寮に思いを馳せる。どの寮だとしてもきっと楽しいことだろう。それだけは違いない。でもスリザリンだけはきっとないんだろうな、マグルだし。それはちょっとだけ残念だ。
「エレナもハッフルパフなんじゃないかな、なんとなくだが」
「そうなのかなぁ」
「分からんがな。さあ次は制服を作りに行くぞ!」
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