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悪魔の実を食べたかもしれない。
少女はぽつぽつと経緯を話した。食べてから色んな声が現在進行形で聞こえること。海に名前を呼ばれたので近寄ったら呑み込まれかけたこと。そこをルフィに助けてもらったこと。
「色んな声……それに、海に名前を……?」
「っていうかアンタ、なんで落ちてるものなんて食べちゃったわけ……?!」
「え、なんか食べたくなっちゃって……あと見た目が桃だったし……」
「ルフィか!! ていうか桃だったからなんだよ!」
る、ルフィか……?! 桃の見た目だったから安全かと思って手が誘われただけである少女は、ウソップのツッコミに衝撃を受ける。ルフィの暴飲暴食ぶりは、被害こそ受けていないが、それでもしっかり少女も知っていたからだ。「お前ら、シツレーだぞ」そんな食い意地張ってるわけじゃないのに……! というショックのあまり、船長からのそんなお言葉も、少女の耳を右から左へ通り抜けていっていた。
「……つまり、その実のおかげで、レディは俺たちと喋れるようになったと」
サンジは(レディは桃が好き)と頭の中にしっかりメモしながら、情報を簡潔に纏めて煙草の煙を吐き出した。「多分……」少女が自信なさげにこっくり頷くと、ゾロが鼻を鳴らす。少女はギロリとした鋭い三白眼で睨まれた。が、睨まれすぎてもう慣れっこになっていたので、今更怯えることもなく、ただ少し首を傾げるだけだった。
「どうだかな。今まで『話せない演技』をしてただけなんじゃねえのか? 隠すのが面倒になったから白状したんじゃ――っなにしやがるクソコック!」
「テメェが失礼抜かすからだろうがマリモヘッド! オロすぞゴラ!」
「(わあ、普段はこんな会話を……)」
いつもなにかと蹴り合い? をしてるから、仲悪いなぁとは思っていた。麦わらの一味って仲良しのイメージがあったから、意外だったのだ。まあこれだって、ある意味仲が良いからこそできるやりとりなのかもしれないけれど。
今まで分からなかったやりとりを聞けて少女はちょっと感動した。感動しながら、(サンジってこんな口悪かったんだ……)と若干引いていた。女性陣への態度はとても紳士的だったから、尚更ちょっとショックかもしれない。少女にそんなことを思われてるとも知らず、サンジはいつものように気の合わない剣士に向けて、文字起こしするには憚られるような罵倒を口にしながら、元気に細い足を振り上げた。わ、わあ。こわ。サンジの二面性を“耳の当たり”にした少女は、ほんの少しだけ彼らから距離をとった。
少女の耳朶に触れる彼らの声は、これまでずっと、チャンネルの微妙にズレたラジオを流すラジオを流すラジオを流すラジオを流すラジオの音、みたいな、とにかく、いつだってそんな名状しがたい音をしていた。高いんだか低いんだかすら判然とせず、文字に起こすこともろくにできない、そんな音。
「(この人たち、こんな声をしていたんだ)」
いがみ合うゾロとサンジ、喧嘩を止めようとして頬を腫れ上がらせたウソップ、泣きながら医者を呼ぶチョッパー、疲れきった溜息を吐くナミに、我関せずとたおやかに微笑むロビン。そして、そんな仲間たちをからから笑うルフィ。
それぞれの個性がふんだんに表れる豊かな音たちに、少女はしげしげとそう思う。いや、ルフィの声は聞いたことあったけど。パズドラとかモンストとかカップ麺のCMとかで聞いたことある。
しかしこの世界に来て早くも数週間――約一ヶ月。そのくらいの時間を船で共に過ごしたけれど、なんだか少女は、今になって初めて彼らをしっかり見れたような気がした。
不意にンン、と咳払いが喧騒を止める。音の主であるナミは、片手を腰に当て、仁王立ちで少女を見下ろしていた。不思議な感傷に浸っていた少女も、ナミの放つオーラに当てられ、ハッと居住まいを正した。
「アンタには言いたいことも聞きたいことも山っほどあるけど」
ナミはにっこり笑って少女が残した書き置きをヒラヒラさせた。それを見て少女もようやく本来の計画を思い出す。そうだった、この島で降ろしてもらおうと思ってたんだった。戻ってきちゃったけど。でも今ならちゃんと口で説明できるし――。
「こんな紙切れ一枚で、海賊と縁を切れると思ってるのかしら」
「えっ」
「ちょっと見通しが甘いんじゃな〜い?」
ニマニマわざと悪どく口角を上げるナミ――と、その背後で似たような表情を並ばせる一味に、少女は戸惑いを隠せない。分かりやすく混乱している少女を見て、ナミの胸も少しすいた。
「ま、とりあえず、お話しましょ」
まずは自己紹介からね。
“海”だけが『名前』を知ってて、私たちが知ってちゃならない道理なんてないもの。
ナミはニッと白い歯を見せて、勝気に笑った。
「私はナミ。あなたは?」
「……ナツ、です」
そっか、私、まだ名乗ってすらいなかったんだった。
彼らのことを一方的に知っていたものだから、少女はそのことをすっかり失念していた。
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