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少女の姿が消えた。
と、聞いた瞬間弾丸のように船を飛び出したルフィは、十分もしないで戻ってきた。すっかり濡れ鼠となった少女を小脇に抱えて。流行りのハンドバッグよろしく持たれた少女は、ルフィのゴムの腕を文字通り“伸び伸び”使った移動法のせいで三半規管な大ダメージを食らっており、口元を抑えて青い顔をしていた。
「なにがあったの?」
「コイツ、海で溺れてた」
ルフィの服は濡れていないところを見るに、陸から自慢の腕を使って救出したのだろう。完全に沈んでしまう前でよかった。船員たちが安堵で胸を撫で下ろす中、少女を降ろしたルフィは、「お前なァ」としゃがみこんで、むっつりした顔を作って少女を覗き込んだ。
「泳げねーなら、誰もいねーとこで海とか入るなよな!」
ルフィは至極真っ当な言い分で少女の無謀さを咎める。しかし日頃の行いのせいで、船員たちはルフィの口から出たなんて信じられないくらい賢明な発言だなと内心で思っていた。サイクロンが来るのかも、と航海士は感覚を風に溶かし、他の船員は航海士の沙汰を固唾を飲んで待った。まあ今のところは大丈夫そうね。そんな顔をしたナミに、全員がホッと息を吐いた。
船員たちは失礼な思考を横に置いて、さて、とルフィに諌められた少女の方を見る。我らがキャプテンの貴重で珍しくまともな意見なのだが、少女には通じていないだろう。けれど、さすがに怒られてることくらいは分かるだろうし、反省というか、もう妙な無茶はしないでほしい。それに、勝手に姿を消されたのも非常に困った。あんな書き置きだけ残されてはいサヨナラバイバイですね、なんて納得いくわけないだろう。決して濃密な時間を過ごしたわけではないけれど、にしたって、昨日今日の仲じゃないんだから。
何を言っても無駄とは分かりつつも、誰も彼も、少女に対して二、三言いたいことがあった。
甲板にぺたんと座り込む少女は、ルフィへ視線を返しながら、目を見開いて呆然としていた。「おい、聞いてんのか?!」仏頂面のルフィに強い調子で続けられ、少女はパチパチと瞬きをした。薄く開いていた唇が微かに震え、一度引き結ばれる。少女は緊張で満ちた面持ちをして、まだ乾ききっていない胸元をきゅっと握った。細く揺れる吐息に、ウソップがちょっと可哀想だなと思って「まあまあ」と助け舟をだしてやる。
ついさっきまではウソップだって色々思うところがあったが、ルフィが食事や戦闘、冒険以外のことでこうも熱くなるのが珍しくて、そんな気はすっかり削がれていた。
「ちょっと落ち着けよ。コイツにもなにか事情があったんだよ、きっと。なあ?」
「えっと……ごめんなさい。もうしないです」
「な、ほら! こうして反省もしてるみたいだし――ん?」
当然のように流れたソプラノに、甲板がシンと静まり返り、暫くは波の揺れる音のみがそよぐ。
今謝った、か細い女の声って――。
「しゃ」
「?」
「喋ったァァァ?!」
ルフィとロビン以外の全員が声を揃えて叫ぶ。ロビンですら目を見開いて、思わずといったように口元に手を当てている。
鼓膜を劈いたキーンという音の余韻に、少女は目をギュッと瞑りながら、ああなんか前にこんなCMあったなぁと思った。今は昔、そしてもはや遥か遠くの話である。
「ん、分かったんならいーよ」
驚く者、警戒する者、現実逃避する者と様々な面子の中、ルフィだけがいつも通りだ。彼は顔に塗っていた不機嫌を払拭させ、代わりにパッと笑顔を咲かせた。
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