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「そもそもよ、何の実を食ったんだ?」

 ナツが仲間になることが決まり、話にひと段落ついたとき。ふとウソップが疑問を口にした。

「言葉が分かるから……コトコトの実とかかしら」
「聞いたことないわね」
「なあなあ、おれも動物の言葉が分かるぞ!」

 チョッパーが目を輝かせてテーブルに身を乗り出した。「一緒だな!」ニコニコのチョッパーに、ナツは困り顔で笑い返した。チョッパーの純朴さに充てられたのか、この世の終わりというようなものだった表情も、少しだけ和らいでいる。

「でも色んな声ってことは、お前は動物以外も分かるんだよな? じゃあ例えば……このカップがなんて言ってるかも分かったりすんのか? なーんて――」
「分かりますよ」
「へっ?」

 冗談のつもりで言ったのにけろりと肯定され、ウソップは目を瞬かせた。耳を澄ませるように瞼を閉じたナツは「ふんふん」と独り言ちて、軽く咳払いをする。

「『あっっっつい! 寝ても覚めても熱湯で拷問を受ける陶生なんて! おれはこんなことのために生まれてきたんじゃないのに! ああもう終わりだ……』」
「暗っ! ティーカップが向いてないティーカップとか存在すんのかよ!」
「っていうのは冗談ですけど」
「冗談かい!!」

 ナミとウソップがツッコミを入れる。ナツが「さすがにカップの声は分からないです」としれっとした顔で言ってのけるので、一味は(意外といい性格してんなコイツ)と思った。まあ笑顔だけでも、それは結構伝わってきていたけれど。

「分かるのは風とか海とか。砂も分かった。でも多分、無機物……物? の声は基本的には聞こえないんじゃないかな……」

 後半はほとんど独り言に近いような声色で少女は説明した。「変換……脳、神経……」顎に手を当てぶつぶつと少し呟いたあと、ナツは脈絡なくウソップの手に自身の手を重ねた。カイロに触れた時のようにじんわりと熱を持った手に、ウソップは驚いて口を開く。

「〜〜? (うお、なんだ?)」
「えっ?!」

 ウソップの口からは、ノイズがたっぷり混じったような、くぐもった、高いんだか低いんだかよく分からない音の羅列が飛び出していた。船員たちが驚いて狙撃手を見る。自分でもそんな声をだしたつもりはなかったため、ウソップはパッと口を抑えた。ナツだけがなにも動じず、「わあ」と無邪気に声を上げている。

「すごい、やってみるもんだなぁ」
「〜〜?! (お、おれになにしたんだよ、お前?!)」
「ええと、こう……言葉を操る神経的なアレをちょっといじってみました、勘で」
「〜〜!! (いきなり何してくれてんだァ!!)」
「ワハハ、ウソップおめー、何言ってんだァ?!」

 ウソップの言葉をバグらせた張本人には、本来の声も重なって聴こえている。なのでナツは、(シャドーイングみたい)なんて脳天気な感想を抱いてニコニコしていた。

「できるかなーと思ってやったらできちゃった。えへ。まあ、これがなんの役に立つんだって感じですけどね」
「そう? 堂々と暗殺の計画を企てたりできるじゃない」
「そんな物騒な使い方は絶対にしません……絶対に……」

 淡々とした、『便利ね』という響きをした言葉を零すロビンに、ナツが顔を青褪めさせる。唐突にでるロビンの物騒さにナツよりもちょっっっとだけ慣れている船員たちは、(お前もいずれ慣れる)と無言でうんうん頷いた。

「ウソップさん、風の声とか聞こえますか?」
「〜〜(んん……いや聞こえねえな)」
「え、そっか……あ、でも聴覚いじってないな……これでどうです?」

 ナツはウソップの手を握る。そこから何度か狙撃手の手は熱くなったが、ウソップの耳にはやっぱりなにも聞こえなかった。

「そっか、共有は無理……いや、私が下手なだけ? うーん、要練習だな……」
「〜〜(楽しみにしてるぜ! とりあえず元に戻してくれよ)」
「え?」
「〜〜?(え?)」
「どうしたの?」

 ナツと長鼻の男は、お互いきょとんとした顔で見つめあった。二人の間で漂っている不思議な雰囲気にナミが尋ねるも、二人は見つめあったまま答えない。ウソップの顔からサーッと血の気が引いていく。

「〜〜……(まさか、おま、お前……)」

 ブルブルと震えるウソップに、それまで凍りついていたナツは、弾かれたような猛ダッシュで食堂を飛び出した。
 慌てて追い掛けた一味が見たのは、デッキの手摺に立ったナツが、見事なフォームで海へと飛び込んでいく姿だった。

「なにやってんだよ/のよ!!」

 言葉にならない悲鳴を上げながら沈んでいくナツを、サンジが急いで救出する。再びナミと声が揃ったことで、ウソップは自分の声が直っていることに気が付いた。


 意識を取り戻したナツに事情を聞けば、「海に飛び込めば能力が解除されると思った」などと供述したので、ナミは額を抑えた。
 たしかにそれは、結果としては当たっていた。でもだからって、悪魔の実の能力者がおいそれと海に飛び込むもんじゃないだろう。いつだかの人質事件の時といい、危機感が足りない。平和ボケとか、もうそういうんじゃない気がする、この子。

「どうしてうちの船にはアクが強い奴しか来ないわけ……?」

 アクが強い奴三号の嘆きに、アクが強い筆頭株主である麦わら男が愉快そうに笑った。
 

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