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悪魔の実を口にした者は海に嫌われ、一生カナヅチになる。
……とかいう、謎の副作用があるらしい。昼食のときにそう教えられた。が、その直後に海に飛び込むなどしてしまったせいで、鬼の形相のナミから「アンタ話聞いてた?!」と叱られています。なう。
「き、聞いてましたけど……でもあの、だって能力の解除方法が……」
分からなくて……と、尻窄みで続けるが、ナミの顔が怖い感じに引き攣った。正当な言い分だと思ったから口にしたのに、どうやら私は火に油を注いでしまったらしい。はい、もう喋りません。
肩から生えてきた腕にふわふわのタオルで頭を拭かれながら、大人しく正座してお説教を聞く――聞いていた。
「だいたい――……ちょっと?」
剣の抜けた、訝しげなものになった声に名前を呼ばれる。けれど返事はできなかった。海の中にいるわけでもないのに、なぜか突然体から力が抜けていく。傾く体を後ろにいた誰かが受け止めてくれたが、お礼を言う暇もなく、私は意識を飛ばしてしまった。
久しぶりに人間とまともなコミュニケーションがとれた安堵で、気が緩んだのかもしれない。それか二度も溺れかけたことや、慣れない船旅で蓄積された疲労がここにきてたたったのか。
とにかく、急に眠ってしまった理由はいくらでも思い付いた。目を覚ました時には、私はもはやすっかり見慣れた女部屋の布団の上にいた。服も濡れてない清潔なものに着替えさせられている。ロビンだろうか。
一先ず甲板に出るか、と立ち上がり、文机に置いてある本を見てふと気が付く。
「(文字も読めるようになってる……)」
どうやら私は翻訳もできるようになったらしい。すごい、耳だけじゃなくて目までGo○gle翻訳。化け物か? “悪魔の実”を食べちゃったんだから、その表現でもあながち間違ってないのかもしれない。
「(元の世界がどんどん遠ざかっていく……)」
シャツの袖をめくり、腕の内側をそっと撫でる。森の中を爆走しているとき、軽くだが手足の所々を引っかけてしまっていた。が、その傷ももうほぼ消えかけている。人間離れが凄まじい。船に乗り続けるなら、その方がいいんだろうけど……うーん……。乗り続け、いや、えー……? や、やだ……。たしかに行く宛てはないけど、このまま麦わらの一味にお世話になるのはなぁ。昼間はなんか仲間にしてもらう感じに話が進んじゃったが、いや私ルフィの言葉に返事はしてないんで! ちゃんと濁してるので!! まだ言質はとられてない、辛うじて。手も握り返してません。全然引き返せる、まだ。
そもそも私、ワンピのことワノ国が完結したくらいの情報しか知らないし。ほんとになんの役にも立てんのだが。翻訳やら通訳も、この世界ってなんかあんま必要なさそうじゃない? 言語通じないの自体が稀有っぽい反応された上、動物とはチョッパーだって話せるみたいだし。いやマジでこの能力誰得なの? 異世界人にしか需要がないじゃん。……もしかして異世界人ってそう珍しくなかったりするのかな。
「(同行させてもらって、同胞を探してみるのも道なのかなー)」
今後の未来に思いを馳せながら、甲板への扉を開ける。ていうか昼間の続きで怒られたらどうしよう〜そろぼち折れそ〜、心が。
「えっ?」
「あーっ! よかった、無事だったんだな!」
折れてた、船が。
甲板半分ばっきりいった惨状に、驚きすぎて階段上から硬直していれば、陸からウソップの声がした。口頭で縄梯子のかけ方を教えてもらって、なんとか下に降りていく。
「……ああ、まだ仲間がいたのか。いやよかった、お嬢さんに怪我がなくて……」
「あ、え、どうも……?」
怪我だらけのおじさんに弱々しく微笑まれたが、そんな重症な人に案じられても……あ、あなたこそ大丈夫なんですか? その頭のやつなに? オシャレ? 頭のてっぺんに栗をつけたおじさんは、“モンブラン・クリケット”と名乗った。名が体を表しすぎじゃん。
聞くところによると、私が倒れた後に向かった近くの村の酒場で、ベラミーという海賊たちとひどく揉めたらしい。で、今、なんかその一味が突然来てこの人達をボコって、ついでにこの船も壊していった、と……。
「ていうかお前、ほんとよく寝てたな。かなりの騒ぎだったと思うぞ、これ……」
「自分でもそう思います……」
半壊している船をまじまじ見て、ウソップが呆れともとれない顔を向けてくるので苦笑してしまう。返す言葉もありません。……え? 船ってこんなふうに壊れるもんかな? 人力だけで……?……私が寝てる間にめちゃくちゃ色々あったんだなぁ! なるほどぉ!
「ほら、ナツも船の修理手伝って!」
「はーい……」
私はあまり深く考えないことにした。ナミやウソップ、おじさんたちの指示に従って木材を運んだり、継ぎ接いだりしていく。
「……あ、ゾロさん、ここ届かないのでお願いします」
「あ? ここは壊れてないだろ」
「そうなんですけど、でも直してほしいって船が」
「……船が?」
頷くと、「物の言葉は分からないんじゃなかったのか」とじっとり睨まれる。そういえばそうだったと私も目を瞬かせて、船に手をついた。ティーカップの声は分からなかった。けれど、今はなぜか子どものような、あどけない声がたしかに聴こえていた。
「“ここを少し強くしてくれれば、みんなをちゃんと次の島まで運べるよ”って言ってます」
「……メリーがか?」
「メリーさんって言うんですね」
さん? 自分で言っておいてなんだが、違和感に首を傾げてしまった。まあいいか。
ゾロは仏頂面をしながらも、私の差し出した板を受け取ってくれた。
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