泥舟


遠い昔の約束が と同じ主人公

 陽の光から逃げる姿を一度だけ目撃したことがあった。
 たったの一度、それも遠目からだけれど。しかし長身痩躯の横顔は、なぜだかやけに心に残っていて。
「こちらは辻田さんです! いつも辻斬り調査の協力をしてくださる方で……」
「してないお前が勝手に無理やりそうさせてるんだろうがクソが死ね!」
 だから幼馴染であり最近部下になったカンタロウからそう説明された時は、思わず顔を顰めてしまったものだ。だって記憶の男とあまりにも似すぎている。
「辻田さんと共に捜査を行えば必ずや辻斬りに辿り着けると確信しております!」
 だろうな。だって隣のヤツが明らかそうだもん。辻斬りの話題がでるたびにギクリとする不審な挙動に、青い顔から吹き出る滝汗に、浮き上がった血管から時折飛び散る血液の結晶に。カンタロウはどうして気付かないのだろう。や、でもピンポイントで当たりは引いてるんだよな……。
 もしかしたら本当は気付いているのかも。
 そんな可能性にふと思い当たる。カンタロウは、絶望的に鈍いボンクラ男ではなかったはずだ。ただ気付いていないふり、見ないふりをしているだけなのかもしれない。だって、気付いてしまえば――。
「……これからもカンタロウをよろしくお願いしますね、辻田さん」
「はあ?!」
 まあ、だったら。辻斬りには悪いが精々このまま――なんなら一生、『辻田さん』をしていてくれ。でなきゃカンタロウは、また『目的』をなくしてしまう。なりたいものもやりたいことも、今度こそ欠片もなくしてしまうから。もう二度と幼馴染をそんな空っぽな存在にしてたまるか。罪の精算をするつもりがあるのかないのか知らないけれど、そんなものは生涯、少なくとも私の目が黒いうちは絶対にさせない。辻斬りナギリには何があっても戻らせてやらない――カンタロウのためにも、絶対に。

 そんな決意を心に秘めて、私は憤慨する辻斬りへ向けて目を細めた。
 

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