「お怪我はないでしょうか? レディ」
私の手を取り、無事を確認するガウェインはまさしく騎士の鏡のようだ。
後ろで血を吐いている沖田さんが見えなければ。
「あの、私は見てのとおり大丈夫なので、沖田さんの心配をなさった方が……」
「ゲホッ、ゴホッ、いえ、なまえさん。私は大丈夫です。……す、少し休憩をいただければ」
その言葉通り休憩をとることにして木陰を探そうときょろきょろと辺りを見回していると、ガウェインが既に丁度良い場所に布を敷いていて「どうぞこちらへ」と手を引かれる。
一連の行動で丸わかりだろうが、ものすごく丁重に扱われている。
彼は、というより円卓の騎士陣からはオルタを筆頭にしたアルトリア勢が彼らの召喚直後に「なまえに怪我の一つでも負わせてみろ、容赦はしない」と脅しをかけた所為かマスターである藤丸君より気を遣われている。
あのトリスタンからも「…ああ、可憐なレディ。今日もご機嫌麗しく」と謳われるように挨拶されるのだ。その他にも、我が王を差し置いて我々に敬称などつけないでいただきたいとか。悪気はないのだろうけど、時々嫌がらせなんじゃないかと思う。あれをまとめていたアルトリアを想うと涙が出そうだ。
そういった斜め上な気遣いをされる中でも、特にガウェインはそれが顕著である。
騎士の中でもナチュラルかつスマートな気遣いと振る舞いはその容姿も相まって王子様のようなのだが、一緒にいるといっそ盲目的なまでに、こちらしか見ていない。今のように彼の王アルトリアに似た顔の沖田さんが吐血しても見向きもしないで。戦闘中はさほどでもないのだが、やはりこちらを気にしているのが分かる。それでも戦闘に支障をきたさないのであれば、代理マスターでしかない私に何も言う権利はない。
それでも言い知れないむず痒さが常にあって、私は彼とのレイシフトを自然と避けていた。
今回はローテーションを重視した結果に一緒になっただけだ。普段はセイバークラスの円卓の騎士ならランスロットと組むことの方が多い。……そっちの理由はマシュがランスロットと組むのを嫌がる為、必然的に藤丸君ではなく私と組むことが多くなるだけだが。
悲しいかな、レイシフト一つでもカルデアは複雑な事情が絡み合う。
だからレイシフトが終わった時に呼び止められたのを断ろうとしたのは、そうした彼に対する苦手意識からだった。
「失礼ですがこの後、少しお時間をいただいても?」
「……すみません、沖田さんを医務室へ連れていくので、」
「それなら私が引き受けよう」
断ろうとするなまえの言葉に、一緒にレイシフトしていたジークフリートが口を挟んだ。
横からの突然の申し出に(えっ、嘘。やめて空気読んで…気遣い違う!)と念じても、彼は「よろしいのですか?」と尋ねたガウェインに快く了承している。
沖田さんは後ろで血を吐きながらも「いえ、私はなまえさんといっ…ごふっ」と最後まで断ろうとしてくれていたのに。彼女には後でお詫びにお団子でも差し入れしよう。
とにもかくにも、私はガウェインと二人っきりで話すことになってしまった。
彼の自室にエスコートされると、見事なまでのティーセットが用意される。
執事のように優雅に準備を進める彼を手伝おうとするのを制されて、大人しく彼が手ずから淹れた紅茶を口にすれば、にっこりと満足気な顔を向けられる。それにまた、苦手意識が刺激されるようで、かちゃりとティーカップを置いた。彼はそれをしっかり見届けると、穏やかに話はじめる。
「単刀直入にお伝えします。
どうか私を貴方の唯一のサーヴァントとして迎えてはいただけないでしょうか」
云われた言葉を、すぐには理解できなかった。
いきなり普段関わりのない、というより避けていた彼にそんな事を云われるとは思いもしなかったのだ。確かに私には、私だけのサーヴァントという存在はいない。種火と素材集め以外にはレイシフトしないからだ。特段、必要も無いし、私自身も嫌だったというのもある。思わずぽかんとしてしまったが、慌てて「そんなの藤丸君に悪い」とか「私の一存じゃ」と当たり障りのないことで断ろうとするも、彼は「すでに藤丸殿にもドクターにも許可は取っております」と言い放つ。
「あとは貴方の了承さえあれば叶うことです」
「まさか、……オルタにも?」
「はい、もちろん。我が王には許可をいただけるまで挑み続けました。
私の熱意が伝わったのか最後には“野菜をすり潰す時以上のしつこさだな、貴様は!そこまでするのなら好きにしろ”とおっしゃられて」
―― それ、許可というより面倒くさくなっただけじゃないかな?
オルタならあり得る。彼女は面倒になるとその短気さが顕著だ。
おそらくオルタの図式として
タフな彼を始末す、…もとい相手にし続ける手間と私への影響を秤にかけて、遂には上回ったのだろう。若干、友人に見捨てられたような気がしなくもないが、あのオルタがそこまで耐えたのだ。彼の執念が凄まじかったのだろう。野菜に何の恨みがあるのかと問いたくなるマッシュ具合を彷彿とさせるまでに。逆に彼女のトラウマを刺激してしまったようで申し訳ない。
だが、そうなると断る理由がなくなってくる。
「騎士としてはどうなの? 途中でマスターを変えるだなんて、そんな…」
「これは通常の聖杯戦争ではありません。マスター同士が聖杯を奪い合うわけではなく、人類全体の戦いと云えましょう。貴方をマスターとしてお守りすることは大本の目的とも違いなく、騎士道に反する行為にもなりえません」
柔らかい物腰ながら「ですから私を」と異様に押しが強い。
どうして急にこんな事を云い出すのか、彼の意図が全くわからない。
彼が私のサーヴァントになるということは、他に専属のサーヴァントがいない私にとっては藤丸君にとってのマシュと同じく、四六時中一緒にいることが多くなるのに。
とりあえず他にこんな事を云い出す理由で思い当たる節を口にした。
「もし最初にオルタに云われた事を気にしているなら、そんなに気にする必要は…」
「我が王に命を賜ったからだけではありません」
はっきりと強い口調で告げた彼が立ち上がり、私の椅子の前にひざまづく。
「一目見た時から、私が守るべき御方だと……いえ、私自身がお守りしたいと、そう思ったのです」
暁月夜からもえいづるとき
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