「みょうじ、手前何もらったら嬉しいんだ?」
「……へ?」
先程までしていた話から一転、脈絡もなく問いかけられる。
疑問符を浮かべる私に中原さんは言葉を続けた。
「贈り物をしてえ女がいるんだが、好みが分からなくてな。
何をもらったら嬉しいもんなのかってな……」
参考だ、と付け足すと何故かじっと見つめられる。
「好みが分からないのでしたら無難に花とか……、
贈る目的にもよると思いますけど、どういった方に贈られるんですか?」
「惚れた女」
事もなげに紡がれた言葉に素直に驚く。
「えっ、……中原さん、恋人がいらっしゃったんですか!?
どんな方なんです?年は?写真とかないんですか?」
つい野次馬精神が顔を出し、矢継ぎ早に聞いてしまう。
たとえて云うなら、女っ気のない硬派な友人に恋人がいたと発覚したような心持ちだ。
「…………手前、俺に恋人がいるのがそんなに意外かァ?」
怒気のこもった低い声と共に睨みつけられ、慌てて弁解する。
「い、いえっ!た、ただそういった素振りがなかったので!
別に中原さんがモテなそうとかじゃないです!恋人の二人や三人いてもおかしくありませんよ!」
「……二人も三人もいるかよ。一人で十分だ」
「あっ、ですよね」
そっけなく否定する中原さんに心の何処かでほっとする。
この世界で唯一友人のような関係である彼が女遊びが激しいのはなんとなく嫌だった。
「そ、それでどんな方なんですか?今度お店に連れてきてくださるならケーキくらいサービスしますよ?」
私のその言葉が気に入らなかったのか、長い沈黙の後、はあっと盛大に溜息を吐いた。
「冗談だ。恋人なんざいねえよ」
それにいたとしても恋人の好みも分からねえ男だとでも思ってんのか、とまだ不機嫌そうにガンつけられる。
親しくなってきたとはいえ、その様になっている姿はけっこう怖い。
「そ、そんなことないですよ。えっ、えーと、贈り物をする方は結局いらっしゃらないんですか?
もし何かあるならプレゼント選びでも何でもお手伝いしますよ。髪飾りとかアクセサリーとか……」
「髪飾り一つ付けねえ手前がか?……そういや手前、アクセサリーの類を全くしてねえよな。此処の仕事そんなに厳しい訳じゃねえんだろ?」
「あー…、あまり、その、今は興味がなくて買ってないというか、持ってないんです」
勿論そういった物を見るのは好きだし、ちょっとはほしいと思うこともある。でもいずれ元の世界に帰ることを思うとあまり形の残る奢侈品の類を買うことはなかった。
今も髪色と同じヘアゴムで縛るだけで、飾り気は全くない。シュシュ一つでさえ買うのを戸惑ってしまうのだ。
へえ、と探るような目つきをした中原さんは機嫌が戻ったのか先程より明るい声できりだしてくる。
「なら今度、買い物に付き合ってくれ」
「買い物……、ですか?」
「ああ、贈り物をする女がいるのは本当だ。つっても相手は俺の……、職場で世話になってる先輩、みてえな方だ」
その時の中原さんの顔は、
本当に大事な人を想うような、優しさに溢れた、そんな表情で
―――
私はそんな彼の初めて見た表情が、
――― それから心の片隅でひっかかったように残っていた。
心にうつる影法師