何も無いこの世界



風呂上がりに見始めた映画が終わると、喉が渇いていることに気づく。
時計は丑の刻参りを指していたが、平気だろうと上着を取った。
財布と携帯だけを手に玄関に向かえば、姉に声をかけられる。


「どこ行くん」
「コンビニ」
「あ、そう」


仮にも高校生の弟がこの時間に外出しようとしとるのに止めへん辺り、俺の姉は自由人や。
きっと俺の容姿が高校生に見えないからとかなんとかで安心しとるんやろ。

家から15分の距離にある、青と白のコンビニは、流石深夜なだけあって人の気配が薄い。
適当に店内をうろついて新商品や雑誌コーナーを見る。飽きればお目当ての炭酸飲料をレジに持っていく。あ、ポイント貯めで。
眠そうな声の「ありがとうございました」を聞き流して店内から出ると、外の壁に女が1人立っていた。


「おにーさん、暇してます?」


おにーさんって俺のことでええんやろか。
それよりも、彼女の服に目が行った。見慣れた茶色のブレザー、着たことはないが毎日見るヒラヒラとしたスカート。


「自分、氷帝学園やん。高等部2年の」
「おにーさん関西の人?詳しいですね」
「そらそうや、俺も氷帝やし。高2」


その言葉を聞いた途端、彼女の顔は社交辞令な笑みを浮かべたまま凍りついた。
全然見いひん顔やけどクラスはどこなんやろか。


「同じ、学年?」
「せやで。何でこんな時間に居るん?制服やと危ないやろ。家帰らんの?」
「あんただって出歩いてんじゃん」


不満を吐き出す彼女の目は、どこか諦めた色をしている。女子高生が見知らぬ男性に声をかけてどうしようと言うんや。


「俺のこと誘って何すんの」
「さぁね」
「……はよ自分ちゃんと帰りや」


程よく眠気に襲われている俺も、そろそろ帰りたい。帰って心地ええベッドで寝るんは大事なことや。


「迷子やないんやろ?」
「迷子でもなんでもないし。行けば良いんでしょ行けば」


スカートを翻した彼女が駅の方に歩いていく。
買ったままやった炭酸飲料を一口飲んでから、俺も家を目指して歩いた。

それにしても、最初と最後で態度変わりすぎなんとちゃう?