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私より女子力高い男士


「主ー!このシャンプー買っていい?」


「シャンプー?……どれ?」


「このカタログの奴」


「高っ!!!!」



ぽかぽかした昼のこと。私が庭を見て「あー、和むわー、今日も茶が上手いわー」とか思いながら自分で入れたお茶をすすっていると、わが軍のリーダーを任している加州清光がひょいと表れた。


どう見ても浮かれている加州がニコニコしながら教えてくれたのは、私が使っているものの倍以上する超高級のシャンプー。

女優さんの長い髪が滑らかに波打っているあたり、値段も高いから効果バツグンなんだろうけど、どう考えても女物のシャンプーだよね、それ。


まあ、それはともかく、だ。




「ダメダメ!だめに決まってるでしょ!」



私は断固として反対した。というか、そうじゃなくても加州はマニキュアを始め化粧品云々にムチャクチャ金掛かってるから、これ以上の出費は困る。

べつにお金に困ってるわけではないけど、これ以上はちょっと……ねえ?



「せめて私と同じシャンプー使ってよ……あれ合わないの?」


「あー、さすがに自分の主のやつを使うってのはちょっと……。それに、主の使ってるシャンプー安物だし……あれ、あんまり美容によくないよ?」



余計なお世話だ!

ていうかなんなのそのキョトン顔で首ひねるの、そんなことすればカワイイとでも思ってるんですか加州くん。

……ムチャクチャかわいいよ畜生!



「……なーんか、ホント、加州って女子力高いよねぇ」



「それって褒めてくれてるの?」


「まあ、うん」



たぶん女の私より女子力高いよあなた。


あ、別に私が美容に興味がないわけじゃないよ? 髪もきちんとブローしたり、リップ塗ったり雑誌も読んだりしているし。ただ、加州がそれを上回って美容関係に気を使っているのだ。


この間もカタログ見てたら「あっ、それかわいい」とか加州が言って乱入して、いつの間にかガールズトークに花を咲かせたもんなあ。


その女子力私にも分けてください。


「そりゃあ主様が俺のこと愛してくれるように努力してるもん」


加州はすすす、と私に近寄り、下から目をうるうるさせて私をじーっと見つめた。



「主は? 俺のこと、好き?」



まるで子犬のようなしぐさ。なんか今にも捨てられそうで必死でよがってるような、おやつを必死でせびるような、そんな感じの甘え方だ。

私は素直だ、正直に認めよう。カワイイ。

これはもうお持ち帰りしたいくらいだ。(どこへだって? もちろんベッ……)



………がしかし、理性を失うな私。それでも私は彼の主だ。こんな所でぶりっ子に引っ掛かるわけにはいかない。これ以上美容関係に金をかけられると困るのだ。

ここは、耐えねば……!



にやけそうになる唇をぎゅっと引き締め、恐る恐る聞いてみた。



「………そのテクニックはどこで覚えたのかなー加州くん」

「このあいだ買った雑誌で」

「没収!」



即座に言い放つと、「えー!なんでぇ!!!」と加州が悲痛の声を上げた。その雑誌も一体何時どれくらい買ったんだ!


こりゃあ近々加州の部屋を調べなければならないな……。



「女子力上げる分には構わないけど、金のかからない上げ方を心掛けること!」

「マニキュアとかどうすんのさ!」

「かけられるお金は今までの半分」

「そんなー!!」



戦に負けたときより絶望仕切った顔でへたり込む加州。そんなに女子力大事なの。もう落ち込み方が女子そのものですよ。



「加州はそんなことしなくてもかっこいいんだからさ、もっと別のこと頑張りなって」



ポンポン、と、私は加州の頭を撫でた。しっかり手入れされている長い髪は、触るとさらさらしていて気持ち良かった。

加州は一瞬、何を言われて何をされたか頭で処理出来なかったのだろう。しばらくぴしりと固まっていた。まるで、本当の子犬みたいだ。面白くてずっと頭をわしゃわしゃしてた。


すると、加州のマニキュアを塗った赤い手が、頭を撫でていた私の手を握った。



「へへへっ」



ふにゃりと顔を綻ばせる。その顔は本当に恋する乙女みたいで、思わずどきっとしてしまった。


ホラ、やっぱり加州は今のままで十分素敵じゃない。




「でもやっぱ、かっこいいよりカワイイがいいなあ」

「…………」


もう女に生まれなおして来い。

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