Short
No trick No treat
「ハロウィンのお菓子……ですか?」
耳慣れない単語を繰り返す。白瑛さんは「ええ」とにこやかに返してくれた。
「『trick or treat』と言って、西洋ではこの日、お菓子を貰えなかったら悪戯をしてもいいそうよ。子供向けの行事ね」
なんて言いながら、白瑛さんは手に持っているお菓子を見せてくれた。
なんでもかぼちゃを使ったお菓子らしい。
「作ったので是非、って白龍が持ってきたのだけれど……てっきり貴方にも渡されてると思って」
ハロウィン?お菓子?トリートメント?
全然知らない。初耳だ。
そりゃあ白龍は料理が上手いしお姉さんも大好きだ。
でも……お姉さんの白瑛さんはお菓子を作って彼女の私には作ってくれないの?
……いや、もしからしたらサプライズかもしれない。今日はまだあるし。考えすぎかもしれない、うん。
「ちょっと貰いに行ってきます。」
「なんだかごめんなさいね」
「いいえ」
ぺこりと白瑛さんに一礼するも、心の中では「白龍畜生」と煮えたぎっていた。
*******
「trick or treat!」
「は?」
自室でトレーニングに励んでいた白龍は、少し目を伏せながら私を見返した。
その目が「意味がわからない、つーか鍛錬の邪魔すんな」と冷たいことを言っている。
まあ…優しい白龍もこういう冷たい白龍も、どっちも隠さず見せてくれるのは私が彼にとって大切な存在となっている証拠なんだからいいけどね。
気に食わないのは気に食わないものだ。
「だからお菓子!白瑛さんにはあげたでしょ!ハロウィンとかのお菓子!」
「それがどうしたんですか?」
「頂戴よ私にも!!」
「ないですよ」
………
…………え?
冗談でしょ?
苛立ちと焦りを隠さないまま駆け寄ると、白龍はくいと顎に垂れていた汗を拭った。
「そもそもハロウィンなんて知りませんよ。姉上に菓子もあげてませんし」
「白瑛さんが白龍から貰ったって言ってたし……」
「姉上の冗談なのでは?」
相変わらず白龍の目は冷たい。
というか白瑛さんがそんな冗談を言うわけがない。白龍が一番わかってるはずだ。
………あ、うん。駄目だ。
もうムリ。
「あふっ!」
私は白龍の口の中に自分の指を2本ねじ込んだ。
「ふーん……。ま、この際お姉上にあげようがあげまいがもうどうでもいいわ。trick or treatって、お菓子を貰わなかったらイタズラしていいんでしょ……?」
「あふ…ふごっ」
ぐちぐちを指をまばらに動かす。白龍は口からよだれを流した。
「たーっぷりいじめてあげるからね、白龍ちゃん」
*****
「ひっ……あ……」
指を1本差し込んだまま、私はゆっくり白龍の上着を取りにかかった。
はだけば鍛え抜かれ、筋肉質な白龍の白い肌が。
白龍のよだれはあごをつたい首にまで垂れていた。
私はそれを舐めとり、首に強く吸い付いた。
「あふっ……ん……!」
白龍の苦しそうな声が聞こえる。
口を離すとそこには赤い痕が。
私はにやりと笑い、首から首筋へ、そして首筋から胸元へと順に後痕を付けていった。
強く吸うたびに白龍はぴくりと跳ねる。
「仮にも煌帝国の王子様がこんな淫らな痕を付けられてるって知られたら、王サマに怒られちゃうかもねー」
「あ……くっ……」
「お母様の玉艶さんに見られたら?それこそ失望されるかもねぇ」
「………」
あれ?
いつもなら何か反論するのに……。
特に仇の玉艶さんの名前を出したら、口を聞いてくれなくなるくらい不機嫌になるのに。
私は白龍の顔をじっと見た。
白龍は、私が口に指を突っ込んでるせいで苦しそう。顔も真っ赤だ。
でも目はなぜか、心なしかとろんとしている。まるで快楽に身を任せているみたいに。
………
………あっ、わかった。
こいつわざとだ。
「えっ………」
私はぱっと白龍から離れた。
「やめた。もうしない」
「あの……スイ殿……?」
「もういいよ、どうせ私のこと嫌いなんでしょう。だからお菓子もくれなかった」
「えっ…あの、ちが……」
「もう白龍との関係も終わり。これからはこういうこともしない。だから処理も他の人に任せてね」
「!!」
白龍の顔が明らかに真っ青になった。というかフリーズ状態。
最初のツンとした彼とは比べものにならないほどだ。
「あ……スイ殿、俺、スイ殿のこと好きです。だから嫌いにならないで。何でもしますから、やめないで……っ」
なんだ、やっぱりこれが目当てだったのか。
白龍は目を潤ませ、すっごい焦りながら私にしがみついてきた。
今までのはぜーんぶ策士。ただいじめられたかっただけ。
……うん、やっぱり白龍はかわいいわ。
「じゃあさ」
私はにっこりと笑った。
「お菓子、頂戴よ」
No trick No treat!
(お菓子がなければ悪戯もしない)
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