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すがり ついて
夜も深まる頃。
私は長谷部とふたり、自室にこもっていた。
私は自分の机で仕事をこなし、長谷部は後ろでそれを見守っているだけ。ほかの刀剣男士たちはすでに就寝時間なので、私がペンを走らせる音しかしない。
「主」
「もうちょっとまってね」
「………………主」
「わかってるってば」
いつからだろう、長谷部がこうも私の名前を呼ぶようになったのは。
以前の彼は、仕事か、私の世話か、主命をもらうとき以外は私の名前を決して呼ぶことはなかった。しかも、仕事をしている私を邪魔することなど言語道断だ。
「……主、申し訳ありません。俺は、もう」
「わかったわよ! まったく、出血大サービスだからね」
しぶしぶペンを置いて、長谷部に向き直った。彼は少し離れたところで正座をし、ただ私をじっと見ている。
膝立ちになり、私は両手を広げた。
「ほら、おいで、長谷部」
「……っ!」
長谷部はまるで「良し」と言われた犬のように、ぱっと顔を輝かせ私に抱きついた。
「っあ……主。主……!」
私の胸元に顔を埋め、がっしりした両手で腰を掴む。
そして、うわ言のように主、主と呟くのだ。
本当にいつからだろう。秘め事のように夜の私の部屋でふたりきり、彼がこうすがりつくように私に抱きついてくるのは。
もともとそういうフシはあったものの、飄々とした性格の小狐丸や三日月、素直な加州清光は人前で抱きつくこともあったが、生真面目な長谷部がこんなことを求めるとは思っても見なかった。いや、恐らく生真面目な彼だからなのであろうが、こういう主従での行為はご法度だろうと決めつけていたのだ。
「主……主……! 主…………!」
最近は数週間に1度のペースで同じことをしている。こうなると徹夜覚悟だった。床に着くことができたのは一度だってないはずだ。
疲れる? しんどい?
いいや、そんなことは一度だって感じたことはない。
だって、私は、私にすがりつく長谷部を、たまらなく好きなのだから。
はじめて抱きつかれたときは、そりゃあ驚いた。びっくりしすぎて誰か助けを呼ぼうとしたくらい。でも、ふと私を見つめたときの、長谷部の今にも泣き出しそうな顔を見て、私は興奮を隠しきれなかった。
それから、私は彼を攻めることなく、その行為を受け止めている。回を重ねるごとに、長谷部のそれは激しくなっていった。
「焦らなくても、私は消えやしないわよ」
「主……! ありがたき幸せ……!!」
私が彼の頭を撫でると、本当に幸せそうに、でも必死そうに私を上目使いで見るのだ。
そしてそれを、私は下から見下すように受ける。まるで神様や教祖にでもなった気分だ。
しかし、ああそのときの彼の顔ときたら!それを見るたびに胸が疼く。たまらなく快感なのだ……!
「主、お慕えしております。永遠に。主……ああ、主……!!」
長谷部が、腰に巻き付ける両手をぎゅっと握りしめた。
ぞくぞくする。
きっともう彼は、私なしでは生きていけない。でもそれでいい。彼は一生私に溺れていればいいんだわ。
これからもずっと私にしがみついて、求めればいい。
そうよ、あなたはそのままでいい。そうしてずっとすがりついていればいいの。
私にもっと依存して……!
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