青の破軍

2


「オルガ」


基地へ戻った私は、MWをオルガの隣に停めた。

コクピットから上半身を除かせると、ユージンのMWの上で、オルガがこっちをにらんでいた。


「全く、勝手なことばっかしやがって」

「でも役に立ったでしょ?」


ちっ、とオルガが舌打ちをする。


「そうならそうと早く言え。知ってたら最初からお前を出してた」

「使えると思われたら阿頼耶識を入れられたでしょ? そんなことしたら、頭がパーンってなっちゃうもん」

「……ちっ! それより、ミカを見とけよ」

「わかってる」


私はMS、ガンダムを見た。

さっきまで諦観していた2機のMSが動き出していた。

敵の一機がガンダムにライフルを向けた。それに気づいた三日月は、敵のMWの群れに突っ込んでいった。

MWの何機かが、ガンダムの足によって粉々になる。


「上手いな、ミカちゃん」


あれなら敵はライフルを撃てない。

中距離戦を諦めた敵は、斧を振り上げてガンダムに近づいた。

三日月は自分の獲物を投げ、振り払われたスキを突いて上から攻撃をした。砂煙が舞って見えにくいけど、相手の腕を破壊したっぽい。

始めて操縦したにしては、上手くやる。


「機体の性能か、ミカちゃん自身の力か……」

「間違いないなくミカ自身の能力だ。じゃなきゃ、あんなトリッキーな動きはできねえだろ」


確かに。軍隊ではまず、あんな動きを習ったりはしない。正規軍のMS2機を相手に善戦しているんだ。

阿頼耶識の力だけじゃない。三日月・オーガス、彼のMS適性は並みじゃない。

まったく、ガンダムに乗るのが少年だっていうジンクスも守るんだから、つくづく不思議な話だ。


「あっ」


急にガンダムの動きが止まった。

背中に突いてるスラスターが、急に動きを止めたのだ。


「おやっさん、ドジったな」


スラスターの補給するの、忘れてる……。

見ていた周りもMSの異変に気づいたのか、うわあって顔をした。

まあ、こんだけ慌ただしかったらうっかりするのも仕方ないだろうけど。


……それに、たぶんスラスターが使えなくてもやれる。相手はガンダムの出現で冷静に対処できていないし、ミカちゃんもノってる。

予測は当たった。ガンダムはスラスターでの移動をやめて、両足で走りながらの攻撃に切り替えた。

砂煙を起こし、相手の顔に一撃を入れた。

あと一撃、というところで、敵がスキをついて撤退しだした。

追いかけるか? と思いきや、ガンダムもまだ調子が万全じゃないらしい。追撃せずに動きを止めた。


「敵は全部撤退していったか……。おい、ミカ! 聞こえるか、ミカ!」


オルガがマイク越しに叫んだけど、ミカちゃんと会話をする気配はない。


「……応答がねえ、気絶してんのか? おい、MWと怪我人の回収を急げ。手が空いてる奴はあのMSを片付けるぞ」


オルガの一言で、ミカちゃんとの戦闘を見守っていた参番組がわらわらと動き出した。

何はともあれ、戦いは終わった。

みんなも、疲労も見えるが、あの圧倒的な戦力を追い払った安心と、信じられないという顔をしている。

ジリ貧ではあったが結果は結果だ。私たちは勝ったのだ。

……少なからず、犠牲も出たけど。

ほとんど子供達だけで、正規軍相手にここまでやるなんて、大したもんだよ。


「お前も手伝え、アイリン!」

「分かった。今い……」


どくん。

頭に電流が走った。


「……っ!」


さっきの頭痛とはちがう。もっと熱くて、気持ちが悪いものだ。

私はたまらなくなって、うずくまり、今度こそ吐いた。

MWに吐瀉物がへばりつく。

……予感はしていた。久しぶりの戦闘だったし、人もたくさん死んでいったんだから。

でも、だからといって、平気なわけじゃない!


「来ないで!!」


声をかけようとしたオルガを止めた。

私は頭を押さえた。

どろどろとしたものが、まるで劇薬のように、私の頭を溶かしていく感じ!


「嫌だ……! 入ってくるっ、私のなかに、人が! っああ!!」

「おい、アイリン!」

「頭が……! 気持ち悪い……っ、気持ち悪い!! いやだっ、こないで!いやあああああっ!!!!」


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