青の破軍
1
「うわあ、おいしい」
あれから私は、夜になるまでずっとコクピットの中にいた。
いわゆる決戦前夜、というやつだろうか?……いや、決戦は今日だから前夜じゃないか。腹が減っては戦はできぬ! ということで、簡単に食事を取っていた。
今日は運良く、アトラ達が来てくれていて、温かいご飯に恵まれた。
トマト煮のスープはこくりと飲み込めば体を芯まで温めてくれる。こういうとき、やっぱり美味しいご飯食べれるって幸せなんだなあ、って改めて思う。
「アトラ私の嫁さんにならない? 絶対いい奥さんになれるって」
私が冗談半分で言うと、アトラは「女の子同士は結婚できないよ」と少し困った顔をした。
「ごめんごめん、アトラはミカちゃんと結婚するもんね」
「なっ……!」
アトラの顔がみるみる赤くなった。
「三日月には言ってないでしょ?」
「もちろん。アトラを裏切ったりしないよ、私」
アトラはほっとしたのか、変なこと言わないでよ、と恨ましげにこちらを睨んだ。私は思わず声を出して笑ってしまった。
アトラの顔のほてりは徐々に消えていった。でも、それと同時に、少し伏し目がちになっていった。
「もしかして、クーデリアさん?」
「あっ、うん……」
ちらりと、アトラはクーデリアさんを見た。当の本人は慣れていないらしいスープつぎに苦戦していた。
確か、ミカちゃんとクーデリアさん、何回か話をしたって言ってたっけ。二人の雲行きがちょっと怪しいかもって子供たちが噂してたし(っていうか私も本人から聞いたし)。
アトラもそこから小耳に挟んだんだろう。
確かに、クーデリアさん美人だし、お姫さまみたいなものだから、年頃の男子が意識するのも無理ないかも。恋する乙女が危機感を持つのも当然だ。
まあそれにしても、年頃の娘はここにもいるんだから、私にだってもうちょっとラブな話があってもいいと思うんだけどなあ。……ねえ?
あれか、やっぱり胸か? 胸なのか?
ここの少年達は胸に夢を持ちすぎだ。クーデリアさんだって、大して私と変わんないだろ!
「アイリンは、三日月の気持ち、わかったりするの?」
「ええ? ……さあ? ああいう奴の恋心はどうやってもわかんないもんよ」
「そうかな。……そうだね。私、もっとがんばんないと」
「アトラは十分がんばってるよ」
アトラは、こっちを向いてにこりと笑った。ちょっと自信なさげな、力のない笑いだった。
「おい、アイリン」
ユージンが廊下の前で立っていた。そろそろ時間らしい。
「はーい。じゃ、アトラ、二人にもありがとうって言っといて。おいしかったよ」
「うん。アイリンもがんばってね」
私はアトラに大きく手を振った。アトラも、笑って返してくれた。
廊下に出て、私は笑うのを止めた。ここから先は、私や彼らのこれからが決まる大事な時だ。中途半端な気持ちでやることじゃない。
「がんばって、か……」
ユージンがぽつりと呟いた。
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