青の破軍

1


さて、ミカちゃんとギャラルホルンのおっさんがあっつーい決闘を行った次の日。

私は全速力で走っていた。


「待てーっ! 待てってばあ!」


もちろん、やりたくてやってるわけじゃない。誰が悲しくて朝っぱらから全速力で走らなきゃならんのじゃ。


「おーい! お願いだから止まってえ!」

『ハロハロハロ!』

「逃げんなって! おいこらあ!」


そう、私が追いかけているのはガンダムお馴染みのマスコットキャラクター、ハロだ。

相棒のデータを見たいから久しぶりに電源を入れたとたん、はしゃいで跳ねる跳ねる。こっちの制止もむなしく外へ逃げてってしまった。

こっちはデータ見たかったからめっちゃ迷惑なんだけどな! おかげで朝っぱらからいらない汗をかくはめになってるわけですよ。


「止まれっ、止まれってってんでしょ! ねえお願いだから聞いて!」

『アイリン息アガッテル! 息アガッテル!』

「誰のせいだと思ってるんだてめぇぇぇぇぇ!!」


もう怒った。激おこだ。いや激おこどころかカム着火インフェルノォォォオオオゥだ。

おのれ見てろよ、こんなこともあろうかと鍛えて(というか強化された)おいたこの体!

私の脚力なめんなああああ!!


『ハロハロハロ! ハ……』

「んお?」


あっ、やべっ。あれは昭弘……。
ちょ、車は急に止まれません! すまん昭弘、ぶつかる!


「いやああっ!」

「どぅわっ!!?」


私は盛大に衝突した。


「ってぇー……」

「ご、ごめん昭弘」

「なんなんだよ朝っぱらから」


昭弘は迷惑そうに呟いた。まあ実際迷惑かけてんだけどね。あっちからしてみれば朝っぱらからぶつかられて尻餅つくんだもんな。ほんとうにごめん。

でも相手が昭弘でよかった。昭弘の鍛えられた筋肉のおかげでお互い怪我もせずにすんだし。

昭弘は始めに飛び込んできたハロを見て怪訝な顔をした。


「なんだこいつは? ロボットか?」

「そう。ハロって言ってね、色々記録もできるし自己学習して自分で喋るようになるハイテクロボットなんだ」


昭弘は感心したようにへえ、と呟いた。


「そいつはすげえな。どこで手に入れた?」


いやあ、戦場で知り合ったアラブの金持ち(一回女顔って言ったら殺されそうになった。ガチで)に販売用のプロトタイプをもらいましてね。

調子をみてほしいって言われたんですよ。良好だったらそのまま売り出すんだって。

ちなみに私のハロは水色ね。


「ほらハロ、このガチムチは昭弘。ちゃんと覚えとくんだよ」

『リョウカイ。昭弘、昭弘』

「あいさつは?」

『ヨロシクナ、ヨロシクナ!』

「お、おう……」


昭弘は喋るロボットに戸惑ってるようだった。


「そういえば昭弘、オルガとなんかあったんだって?」

「あ? ああ。あいつ、権利書を俺らに返しやがったんだ」

「へえ?」


権利書ってたしか、昭弘やチャドたちヒューマンデブリは所有物扱いされてるから、それを返すと所有物じゃなくなるって意味になるんだっけ。

それにしてもヒューマンデブりって酷な名前付けるよねえ。デブりって残骸とか、ゴミとかを指すんでしょ? 奴隷みたいなもんじゃん。ううん、奴隷よりもひどいかも。


「それでも昭弘はここに残ったんだ」

「ここ以外に働くところがねえだろ」

「そうなの? ……ねえ昭弘」

「あん?」

「昭弘、今までで一番いい顔してるよ」


昭弘は難しい顔をして「そうか?」と聞き返した。


「うん。目が生き生きしてる」

「生き生き? そうか……生き生き、か……」


昭弘は確かめるように繰り返した。その顔は自然とほころんでいるように見える。

でもそれは昭弘だけじゃない。ミカちゃんも、ユージンやビスケット、オルガだってそうだ。急がしそうに見えるけど、それでも、以前よりいい顔をして働いてる。


「そうだアイリン、お前、本当はMWの操縦とくいなんだろ?」

「専門はMSだけどね」

「強けれりゃどっちでもいい。今から一時間だけ、ちょっとつきあえ」


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