青の破軍
2
大きく右へ旋回する。すると、メインカメラが昭弘のMWをとらえた。
いい線イってるけど、動きが遅い。向こうはまだ私に反応していないようだ。
私は引き金をひいた。すでに頭部にこびりついていたペンキに、さらにペンキを上塗りした。やりい。これで6回、昭弘を倒したことになる。
「ハロ、現在の命中率と回避率は?」
『命中率79パーセント、回避率72パーセント』
「ま、久しぶりだしこんなもんか。……おっと!」
昭弘がこっちを狙っていた。すばやく操縦かんを切る。あっちがペイント弾を打つ前に、私は簡単に回避をすることができた。
「へん、ミカちゃんより上手く扱えますよ、私は!」
ぴったり一時間、私と昭弘は模擬線を行った。結果はもちろん私の圧勝、昭弘のMWはペンキにまみれて蛍光グリーン一色になっていた。
MSと比べて反応が遅かったのが気に触ったけど、なまった腕には丁度いい刺激だったかも。
MWから降りてきた昭弘は息もあがって汗ぐっしょり。とても満身創痍だった。
「くっそ……まさかここまでても足も出ないとは……」
昭弘は肩を上下させながら拳を強く握った。
「もう一回だアイリン! 次は負けねえぞ!」
「昭弘今から出掛けるんでしょ。そんな時間ないんじゃない?」
「……っ、なら帰ってきてからだ! 宇宙でもどこでも、シュミレーションでもなんでもいい!」
「受けてたちますよ。もちろん勝つのは私だけど」
「いいや、絶対勝ってみせる!」
昭弘はすごい形相で叫んだ。
うわあ、こいつはしつこいぞ。絶対自分が勝つまで何度も何度も挑んでくる気だ。まったく、私は何回こいつの相手をすればいいのやら。おばあちゃんにならなきゃいいけど。
「早くシャワーを浴びたら? 汗くさい取引相手とはいい交渉をしたくないものよ」
昭弘はそこでようやく闘争心の火が消えた。よっぽど悔しかったのか、こっちをひとにらみして渋々シャワーを浴びにいった。
さて、私もひと浴びしましょうかね。戦ったあとのシャワーって最高だもん。そして何よりビーr……おっとっと。20歳までは飲んじゃダメなんだっけ。
でも美味しいんだよね、あの一番最初のプハーッが!
1軍やおっさんたちが残していったお酒とおつまみがあるだろうし、さっさとシャワー浴びにいこっと。
でもみんなは未成年でお酒はダメだよ! 私はもう強化されて、からだがあちこちボロボロだからいいんだからね! 決して強化されてなくても飲んでたんだろうとか考えてないからね決して!
……っと、あれ? あそこにいるのはちびっこ達?
「どうしたのみんな。もしかして整備チーム? ごめんね、MWペンキまみれにして」
「かっこいいっス、アイリンさん!」
へっ?
「さっきの戦い! すっげえ動きするし、昭弘さんをあんなに一蹴するなんて!」
「この間だって、MS相手にMWで対抗して! たったひとりでオルガさんを守ったじゃないですか!」
「アイリンさんがそんなにすごい人だなんて知らなかったです! 俺、ソンケーします!」
「お、おう……」
私は子供たちのピュアパワーに圧倒してしまった。
恐らく、昭弘とのバトルを見てたのだろう。子供たち全員がキラッキラした目で私を見た。
こんな目で見られたことないから、ちょっと臆しちゃった。
「アイリンさん! 俺もいつか、三日月さんだけじゃなくて、アイリンみたいにMWやMSを使えるようになりたいっす! アイリンさんのMS、すっげえかっこよかったし!」
あの三日月三日月言ってたタカキくんだって、私を憧れの対称として見ている。。
こりゃあ、思わぬ戦利品とでも言うべきか。子供たちにこうも尊敬の眼差しを向けられるなんて。
いやでも、こうして敬われるのに悪い気はしませんな。いいぞいいぞ、もっと敬ってくれたまえ。
「いい心がけよタカキくん。もっと精進したまえ」
「なんだかアイリンさんって……」
「なんだいそ知らぬ少年、あまり誉めても何も出てこぬぞ? ヨホホホホホホ」
「男みたいにかっこいいっすね!」
ぴしっ。
「ほんとだよな。機械の扱い上手いし、男より力持ちだし」
「料理はヘタだし、いびきかいて寝るし、胸はちっちゃいし」
ぴしぴしっ。(←心の何かにヒビが入る音)
「そこらへんの男より男らしいよな!」
「君たちの私に対するイメージそんなんだったのね?」
アイリンちゃんショック。
そりゃあ、シノとかに女扱いされたことなかったけどさ、それってあいつらが特別なのかと思ってた。結論私の女らしさが低いからなのね?
だからお前たちの胸に対する執着なんなの。私は標準だって何度いったらわかるの。わかってお願いだから。ていうか、運動してたらちっちゃくなるものだから!
「お前達やめないか! アイリンさんなんかわかんないけど傷ついてるだろ!」
「タカキくん……!(なんで傷ついてるか解れよ!)」
「確かにアトラやクーデリアさんの方が女らしいけど、アイリンさんだってそれなりに女らしく生きていこうとしてるんだから! そんなこと言ったら駄目!」
「ちょ、タカキクンェ……」
それ全くフォローになってない。むしろトドメ刺しにきてます。
やめたげてよぉ! 私のライフはもうゼロよ!
『アハハハハハハ』
「笑うな、ハロ!」
思いっきりハロを蹴飛ばした。ハロは『アァー……』と言いながら、なされるがままに転がっていった。
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