青の破軍

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「アァーーニメじゃないっ、アァーーニメじゃないっ! 現実なのっさぁぁぁ〜っ!(チャラチャチャラッ!)

アァーーニメじゃないっ、アァーーニメじゃない……」


いやあ、盗んだバイク使って大声で歌いながら走るのは快適ですなあ。もちろん盗んだんじゃなくて、オルガから許可もらって借りてきたバイクだけどね。

MS使えるようになると、わざわざ車校行かなくてもバイクや車乗れるから便利だよね。

町へ降りることは滅多にないから、私は結構テンションが上がっていた。いくら戦争の名残があるとはいえ、町の活気はそこそこあるもんね。

新鮮な野菜を見たり、笑顔でなにかを売ってる人たちを見てると、こっちまでなんだか元気が出てくる。

……もちろんその裏で、まだ年端もいかない子供が路地で倒れていたり、子連れの女性が物乞いをしたりしてるんだけどね。

やっぱり戦争って、なんていうか、凄く大変なことなんだろうなあ。

誰かが、『作ることは、壊すことより難しい』って言ってたけど、本当なんだな。


……まあ、今私がそんなこと考えても、しょうがないか。


せっっかく午後を全部貰えたんだし、お金もたんまりゲットしたから、久しぶりに楽しまないと!


「ほら、ハロも歌いなよ! どうせ誰も見やしないって」

『ピーッ! 申し訳ありませんが、そのような機能はございません。アップデートを行うか、新しいソフトを導入ください』

「あ、はい、すみません」


私は思わず、素直に謝った。帰ったら追加ソフト入れておこう。

なんか冷静に突っ込まれすぎて、すっごいテンション下がった。ひとりで大声だして歌うとか、はずかしっ。


「あーもう、イライラするからハロは転がって来な。私のバイクにぶつからないようにね」

『ハロハロー』


ハロは私の嫌味を異にも介さないのか、素直に従って自分から荷台からぴょんと飛び降り、そのまま私の隣をぴょんぴょん跳ねた。

そんなに速く走ってるわけじゃないけど、バイクと同じ速度で跳ねるハロは恐るべし。前々から気になってるけど、この子どんな体のつくりしてんのかしら。


「そういえばハロ、町の地図をインストールしたよね。あれ見せて」

『リョウカイ、リョウカイ』


ハロは飛び跳ねながら、口の中からぷくりと、バスケットボールよりひとまわり大きいくらいのシャボン玉をつくり、町の地図を表示した。


「えーっと、アトラの働いてる雑貨屋さんは……と」

『店ノバショ、ワカルカ? アイリン』

「わかるわかる! ここの角を右に曲がって、ここをこう……」

「危ない!!」

「え?」


地図から目を離すと、目の前に人がいた。

私はあわてて横に回った。ぎゃりりりりりっ!とタイヤが擦れる音がする。なんとかぶつからずに済んだけど、急に曲がったせいで、勢い余って壁に衝突してしまった。


「いったあーっ」


背中を思いっきり打った……! 後ろがめっちゃジンジンするんだけど……!

あまりの痛さに、その場にうずくまってしまった。


「大丈夫かい君っ。救急車を呼ぼうか?」

「大丈夫っす、なんとか……」


たぶん骨も折れてないし、軽い打ち身程度だと思う。しばらくしたら動ける、かな? あっ、だんだん痛み引いてきた。大丈夫だ。


『立テルカ、アイリン。立テルカ、アイリン』

「なんとかね……よっと」


まだだいぶズキズキするけど、変に痛むところはないし、立ち上がれるからいいか。バイク運転できるかな。

……あっ、そうだ、バイク!

私は慌ててバイクを探した。壁にぶつかったあと、勢いでいくらか だろう、2、3メートル先に横に倒されていた。

痛む腰を押さえながらバイクを起こして調子を確認した。ちょっとメッキが剥げたけど、エンジンもかかるし、ちゃんと動くっぽい。

よかったあ、壊れたらどうしようかと思っちゃった。弁償まではいかないだろうけど、絶対苦い顔されるに決まってるもん。


「君、完全によそ見をしていただろう。こっちが気がつかなかったらどうするつもりだったんだい!?」


ぶつかりそうになった人が、目をつり上げながら叫んだ。

青い目をした青年で、恐らく二十歳前後だろう。怪我をしているのか、腕に包帯を巻いていた。


「ごめんなさい。つい、考え事をしてて」

「まあ、お互い怪我はなかったからよかったけど」


男の人は、ほっとしたように苦笑いした。全くその通りだと思う。

明日宇宙だってのに、今日骨折なんかしたらそれこそ苦い顔だけじゃ済まないはず。

ていうか、せっかくHi-νガンダムに乗るチャンスを怪我なんかで棒にふったらもったいないわ。どうせ宇宙で戦闘のひとつやふたつあるよねきっと。

え、相手のが怪我したらどうするかって? 程度を見て逃げる。警察沙汰は一番嫌だ。

私は険しい顔をした青年をじっと見つめた。よく見ると、そこそこイケメンだ。どっちかというとキレイ系ってわけじゃなくて、ジュ○ンボーイとかにいそうな感じ? 鍛えてあるのかいい体してるし。


…………。


……あれっ?


この人、どこかであったことがある?


顔は、見たことがない。でもつい最近この人と会っている気がする。

この世界で知っている人は少ない。町に出掛けるのはこれが始めてだし、CGSで会った人でもない。なら、どこで?

最近、顔を見ないで対面した人?


……そうだ。

わかった!


「あなた、軍人さんでしょ!」

「えっ!?」


私の問いかけに、男の人は目をかっと見開いた。


「君、どうしてそれを?」

「やっぱり! わかるんだよ! だって、胸がきゅんきゅんするんだもん!」

「き、きゅんきゅん?」


そう、胸がきゅんきゅんするの。

あの、恋愛とかじゃなくてね? 壁ドンとか、あごクイとかされてトゥクン……とかじゃなくて。

なんていうか、こう、……なんだろうね、闘争本能を刺激されるというか……。これが一番近いかな。

ま、そんなことはもうどうでもいいや。


「ねえ、一緒に買い物に行きましょ。軍人さんなんでしょ? ならお金一杯持ってるよねっ」


私は、軍人さんの腕をぎゅっと掴んだ。
せっかくのサイ……イケメンを、簡単に手放したくないよね!


「ち、ちょっと待ってくれ! どうして君と一緒に買い物なんか……」

「なら、大きな声で言ってもいいの? みなさーん!! この人軍人でーす!! ギャラルホルンの人がここにいまぁー……」

「わかった! わかったからやめてくれ! 一緒に行くから!」


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