青の破軍
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「大丈夫かい? 荷物は全部……」
「なんとかなりそうです。ありがとうございます」
気がつけば、日が沈み始め辺りは真っ赤に染まっていた。時間を見ると、すでに夕方5時前。
お互いそろそろ帰らなきゃならないということで、ファミレス的な所で別れることにした。
ちなみに、ファミレス的な所でで私が食べたものも全部アインさんが払ってくれました。アインさんコーヒーしか飲んでないのに。まあ100%私のせいだけどね。
『アイリン買イ過ギダ、買イ過ギ』
「たまにはいいじゃん、うるさいね」
『認メタクナイモノダナ〜』
荷台に積みきれない大量の買い物袋を見て、ハロがピコピコ騒いだ。
ん〜、まあ確かに荷台には入んなかったけど、両腕で持ちながら運転すればなんとかなる量……かな?
「さっきから思ってたんだが、随分ハイテクなロボットだな」
アインさんは、不思議そうな顔してハロを見た。当のハロは目をチカチカと光らせながらその辺を転げ回っている。
ハロを始めてみる人は、大概そんな感想言うよね。私も始めてみたときはキェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァァ!!!ってビックリしたし。喋るおもちゃは沢山知ってるけど、自我を持って動いたり喋るのは始めて見たから。
「アインさんは良かったんですか? 私の買い物に付き合わせちゃって。自分の用事とか……」
「無理矢理買い物に付き合わせたのは君だろう。俺の金まで使い込んで」
アインさんは、「軍人ったって、そこまで給料いいわけでもないし、俺は新人なんだぞ」と付け加えた。
「あはは、ですよね。すみません」
そう考えると、やっぱりこの量は買い過ぎ? ちょっと調子に乗りすぎちゃった?
たぶん、だいぶ調子に乗っちゃったな。うーん、アインさんには申し訳ないことをしたな。
苦笑いしてると、険しい顔つきだったアインさんがふっと笑った。
「いや、いいんだ。元々気晴らしにと上司が連れてきてくれたんだ。やることなんて特になかったし。逆に君が振り回してくれて良かったのかもしれないな。こっちも少し……なんていうか……気が楽になったよ」
そ、そうかな?
出会い頭アインさんを轢きそうになって、その後軍人だからって無理矢理買い物に付き合わせて、挙げ句の果てにその金で両手に余るほど買い物をしたけど? だいぶ振り回しましたけど?
言葉にしてみるとかなり酷いなこれ。アインさん大丈夫? 私に殺意とか沸いてこない? これで気が楽になったとか、心労でだいぶ参ってません?
今更ながら心配になってきたぞ。
「そういえばさっきの質問、まだ答えてくれてなかったな。どうして君は俺がパイロットだってわかったんだい? MSに乗ってたなら、なおさらだ」
私は少し考えてから答えた。
「なんとなく、できてしまうんですもの、しょうがないわ。説明しようがないの。」
ニュータイプだの強化人間だの、いちから詳しく説明してたら大変だもんね。
まあ、アインさんがパイロットだってわかったのは本当になんとなくだし、第六感的なもの? だから、今の答えもあながち間違ってはいないんだけどね。
「不思議な子だな、君は。もし、機会があれば、もう一度君と話してみたいな」
「……」
次も恐らく会うだろうし、そのときは宇宙でしかも戦闘の時だろうけど、さすがにそれは口にしなかった。
「あまりないと思うが、一週間はできるだけ宇宙に近づかないでくれよ。君を巻き込みたくはないから」
「ありがとうございます。……じゃあ、私はこれで」
ぺこりと一礼して、ハロと一緒にバイクに乗ろうと足をかけかけたとき、ふと、ひとつだけ忘れていたことを思い出した。
「アインさんっ、これ」
私は買い物袋からプレゼント包装された、手のひらサイズの小さな小包を投げた。
「今日のお礼です」
中にはシルバーのブレスレットが入っている。アインさんは箱を開けて、手にブレスレットを乗せてまじまじと見つめた。
気に入ってくれるといいんだけど。
「それはちゃんと自分のお金で買いましたよ。今度合うときは、もっと美味しいご飯やさん探してきてくださいね」
「探しておくよ! 君の名前は?」
「アイリン、アイリン・レアです! それでは!」
『ハロハロハロ〜!』
私はエンジンをかけ、鉄華団の元へバイクを走らせた。
後ろを振り返って大きく手を振ると、アインさんも穏やかな笑顔で手を振り替えしてくれた。
*******
鉄華団に帰って来たとき、まだ日は暮れてなかった。門を潜るとき、見張りの子達にびっくり顔で荷物を見られたけど気にしない。
みんな宇宙に上がる準備で慌ただしく右往左往しており、前より人数が減ったっていうのにいつも以上に賑やかだった。
それにしても、人だけじゃなくてMWもだいぶ減ったなあ。宇宙でも使えるよう装備を変えてたのは見てたけど、もう全部積み込んでいったのかな。
格納庫なんかも広く感じるなあ。いつもはMWでぎゅうぎゅう詰めなのに、こんなに面積あるもんなんだね。
……って、
「あれ、私のガンダムは?」
確か、外に出しておいたはずなんだけど、見当たらない。
「アイリンのMSなら、午前中に昭弘が持っていってた」
「え、ええっ!?」
ナンダッテー!?
「ていうかあれ使える人いたの?」
「トラックで運んでたよ」
ヤマギが資料の束片手にさらっと言ってのけた。
門の近くにMS運搬用のトラックあったけど、あれ、私のガンダムを運ぶために使ってたのね。てっきりミカちゃんのバルバトスだけ運んでいったとばかり……。
宇宙に運ぶのはかまわないんだけど、持ち主の私に一言あってもよかったんじゃない? 昭弘と一緒に持ってかれたとか知らなかったよ。解体されたか盗まれたかと思ってびっくりしたじゃん。
「……ていうか、アイリン何その荷物の山」
「いやあ、たまたまサイフを見つけて」
「人のサイフを勝手に使ったの?」
「ううん、サイフについて来てもらった」
ヤマギは不思議そうに首を捻った。
「あっライド! 丁度良かった、ヤマギと一緒に持ってくの手伝ってよ!」
「はあ? ってなんだよこれ」
ペンキまみれのライドは、ちらっとバイクの荷物を見て、明らかに顔をしかめた。とてもめんどくさい仕事を頼まれそうになってると判断したらしい。
「俺今忙しいんだけど。ユージンさんとかタカキあたりにやらせろよ」
「MSを赤く塗ったりしてんの?」
ライドについてるペンキは、少しどす黒い赤のペンキだった。ペンキ独特のつんとした匂いがなければ、一瞬血かと思いそうな色だ。
「できてからのお楽しみだよ!」
そう言って、ライドは慌ただしく走っていってしまった。ヤマギもまだMWの整備があるからって格納庫へ去っていった。
『ハロ〜、アイリン、ヒトリ、ヒトリ』
「ハロもいくつか持ってくんだよ」
中は人が混雑していて、さすがに走りながら移動するのは危ないからバイクを引きながら建物近くまで歩いていたとき。丁度、建物からユージンとシノが手ぶらでやって来た。
「シノーユージーン、手伝ってー」
「おいおい、なんだよこれ」
二人は大量の荷物をじろじろ見た。
「よくこんなに買い込んだなぁ! アイリン」
「オルガがこんなに金をくれたのか?」
「いや、ちょっと色々あってサイフを拾って……」
詳しくはサイフを持った軍人さんを無理矢理連れていったんだけど、ユージンは「へえ、わりぃ奴」とからかうように笑った。
全く、私もそう思いますね。
「なあ、俺らにお土産とかあるのか?」
シノがいかにも期待した目をこちらに向けた。
「えっ? ごめん、ちょっと聞こえなかった」
「土産だよ土産」
「エエー? ナンダッテー?」
「お! み! や! げ!」
「とんでもねえ、あたしゃ神様だよっ!」
「諦めろシノ。こいつ全部自分の分しか買ってきてねえ」
「あっ、ヤマギとライドにお土産あげないと。ターカキー! 」
「怒るぞてめえ!」
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