青の破軍
8
私が帰投する頃には、戦いは全て終わっていた。ミカちゃんも、いい具合に敵を撒いて帰ってきた。
やっぱりノーマルスーツ着ていくべきだったかなあ。汗かいちゃった。途中からジャケットは脱いだけど、コクピットの中で汗の玉がいくつも浮いていた。
洋服、これしか持ってないのに、洗濯しなきゃ。誰かに借りようかな。ああでも、それよりもまずはあっついシャワーを浴びたいな。
「よう、アイリン」
外に出ると、満足げな顔をしたオルガが出迎えてくれた。
「お疲れさま。すげえじゃねえか」
「ふふん、もっと褒めてもいいのよ? 今は気分がとーってもいいから」
対MS戦はイマイチだったけど、船を一隻落としたから、久しぶりにしてはまあまあかな。MSもなんだかんだで8機くらい倒したし。
オルガは、私がタンクトップ一枚でMSから降りて、ノーマルスーツなしで戦闘してたことに気づくと、とたんに顔をしかめた。
それから、ノーマルスーツなしで、MSで宇宙に出るとは何事だ。危ないから今度からちゃんと来てこいよって少し説教された。
私は謝ったあと、少し周りを見た。
ミカちゃんは上でアトラとお嬢さんと何か話してた。見たところ元気そうでなによりだ。ミカちゃんのバルバトスは、けっこうあちこち壊れてるけど。
あの2機中々強そうだったもんなあ。戦闘時間も長かったし、五体満足なだけましか。
別の場所では、少し人だかりが出来ていた。見ると、出撃したと見られるMWと、ノーマルスーツ姿で色んな人に囲まれているユージンが。
「ユージン? MWに乗ってたの?」
「敵さんに一泡吹かせるのに色々やってたんだよ」
オルガは今までのことを簡単に説明してくれた。小惑星を利用して敵艦を翻弄したこと。そのためにユージンが小惑星に取りついて大活躍だったこと。
私がフィン・ファンネルを使う少し前のことかな。こっちが攻撃されてたんなら、気づくべきだったのに。目の前の戦いに夢中になりすぎたな、反省反省。
私は人がはけるのを見計らって、オルガと二言くらい言葉を交わした後、タカキくんからドリンクをふたつもらってユージンの元へ行った。
「ユージン」
声をかけると、ユージンはこちらを向いた。さすがに疲れてるみたいだけど、それ以上に達成感に溢れた顔をしていた。
「お疲れさま」
「お前もな」
ドリンクを投げると、ユージンはそれを受け取って口に含んだ。
「ていうかお前、戦闘中回線ガラ空きだったぞ? 戦ってるときの会話丸聞こえ」
ええ? マジで? 回線、確か閉じてたはずじゃあ……
……あっ、そういえば周波数? 合わせるために、出撃する前一度全開にしてたわ。そしてそのまま出て調整するのを忘れていた、と。
うわあ、戦ってるときあんま気にしてないけど、けっこうテンションハイってるよね私。昔、同僚から怖いって言われたことあるもん。
「それ、みんな知ってるかな?」
「少なくともブリッジにいた連中はな」
ブリッジだけなら、まだ……いや全然だめじゃん。むしろブリッジが一番だめだわ。
あいたたた、やっちまったなあ〜。みんなドン引きしてるよ絶対。
「お前、もうちょっとおしとやかにしろよなあ。そんなんだから女らしくないって言われんだよ」
「あっはははは……」
ごもっともです。私は苦笑いしか出てこなかった。
「ユージン、ビスケット、疲れてるところ悪いがちょっと来てくれ」
再びオルガがやって来た。ユージンは、人使いが荒すぎだろと悪態をついた。それでも一応行くつもりらしいけど。そうしているうちに、どこからかビスケットもやって来た。
一体なにするんだろう。じーっとオルガを見つめていると、目が合ってしまった。
「なんならお前も来るか?」
「行く!」
なんかすごいおもしろいことしそうだもん! すっごい汗かいてるけど、大丈夫だよね。 これだから女子力ないとか言われるんだとか言わないでね!
私たちはオルガにつれられて倉庫に来た。そこには、何度も何度も顔を殴られて元の面影もないオッサンの姿が。
どうやら、このオッサンの処置についてらしい。
「俺たちを売ったこの土手っ腹のことなんだが……」
オルガはトドのオッサンを指差した。
オッサンは今タオルで口を縛られ、素っ裸で体をぐるぐる巻きにされていた。顔が悲惨なことになってるけど、未だに脱出しようと体をくねらせていた。
「こいつをギャラルホルンのとこに流したいと思ってる。メッセージ付きでな」
ギャラルホルンの言葉を聞いて、オッサンが暴れ出した。といっても、縛られてるからもぞもぞーぐらいな感じだけど。喋れないから唸り声を上げて抗議している。
「お前に拒否権はない。黙ってろ」
それでも唸ったから、ユージンに一発殴られてようやくおとなしくなった。
「それで、メッセージは?」
「『お前らの仲間らしいから、 お前らでけじめをつけろ』。終わったら、棺桶かなんかに詰め込んで射出しろ」
「了解」
ビスケットが、前に出てオッサンのでっぷりした腹に文字を書き始めた。縛られてもなお動くから、ユージンに押さえつけられて。
このためにビスケットを呼んだのか。確か、文字の読み書きできるのってビスケットくらいなんだっけ?
にょろにょろと動く紙に悪戦苦闘しながら文字を書いてる姿を見て、頭にぴきーんと電流が走った。
「これがほんとの『おトドけもの』です。なんつって」
「上手いこと言うな、お前」
to be continued…….
[46]
*前次#
ページ:
ALICE+