セットトゥワーク

女から電話がかかってきたと思ったら突然、「ハッキングはできるか」と聞かれた。「犯罪だからやらないができないことは無い」そう答えると、力を貸してほしいと頼まれた。乗り気ではないが大層困ってるように見えたので協力してあげることにした。
「迎えに行くから外で待っててくれるかしら?」と言われて、急いで準備を終わらせ玄関前で待っていた。女はすぐに来た。手入れのされたブロンドヘアの女は変装のためか大きめのサングラスをかけていた。

「まだ名前を教えていなかったわね。ベルモットよ、好きに呼んでちょうだい」
「ベルモット……それはお酒の名前だね」
「あら、よく知ってるわね」

別に隠すような内容でもないのか「私たちの組織の幹部にはお酒の名前をコードネームとして与えられるのよ」と説明された。これから合流する人たちもそのコードネームを与えられた人間らしい。

「私を呼ぶってことは他にハッキングができる人がいなかったということ……かな?」
「別に出来なくはないと思うわ。ただコンピュータのセキリティの強い場所だったからそういうことに強い貴女に目処がたったってわけ」
「ふむふむ、なるほどですなぁ」

つまり念のためということだろう。確実性はあった方が良い。他に意図があるとすれば、私にどれだけその分野の能力があるか確かめるため、だろうか。いくら板倉卓の娘だからといって完璧に能力を継いでいるわけではない。実際、彼女からの依頼を受けるまでは趣味程度にしかプログラミングはやっていなかった。もし確かめる為ならば、成功させるべきだ。敢えて速水空映は無能であると思わせる術もあるが、今回それをするのは危険だと感じた。

「着いたわ」という声で視線を上げた。どこかの研究所だろうか。訳の分からない機械がズラリと並んでいる。

「遅いですよ。何していたんです?」
「ちょっと役に立ちそうなものを持ってきただけよ。遅れて悪かったわね、バーボン」

窓越しに声をかけてきたのは金髪で褐色肌の男だった。バーボンと呼ばれた男は「役に立ちそうなもの?」と彼女に聞く。

「ええ、とっておきの……ね」

ベルモットはそう言ってこちらに目線を向けてきた。そして男の目線もこちらに向けられる。

「とっておきのって……彼女、子供じゃないですか」
「あら、女を舐めてかかると怖いわよ。覚えておくのね、ボウヤ」

ベルモットは男に対して嫌味っぽく言った。「そうですか、以後気を付けますね」と言った男の表情は至って笑顔であったが、寒気を覚えた。

「それで、あの二人は?」
「先に入ってますよ」

貴女があまりに遅かったので、と言うことも忘れず。この男は案外根に持つタイプなのかもしれない。

「あらそう。貴女の仕事、無くなっちゃったわね」
「そうだね」

欠伸をしながら「他にすることがないなら寝てもいい?」と聞いた。すると「仕事は一つだけじゃないわよ」と足元に置いてあった鞄からノートパソコンを取り出す。それを私に渡して「貴女の仕事はここで行われている研究内容のデータを取ることよ」と言われた。

「できるわね?」
「成功するかわからないけど……やって見るね」

そう言ってパソコンを起動させた。
結果からいえば、成功した。私もこれで晴れて犯罪者の仲間入りというわけだ。そんなの全く嬉しくない。

「へぇ、内部に入らず情報を抜き取れるなんて凄いな……君、名前は?」

男にそう聞かれる。ベルモットの方に名前を教えてもいいのか、と目線で訴えかけた。すると「……カイピロスカよ」とお酒の名前を呟いた。その言葉に男はポカンとした顔を浮かべた。

「彼女の名前、知りたかったんじゃないの?」
「え、ええ。そうですが……」
「もしかしてコードネームを持っていたことに驚いたのかしら?そんな珍しいことでもないでしょ」

さらりと嘘を述べてく彼女に感謝する他ない。私はカイピロスカという呼ばれたことはないし、コードネームという存在も今日初めて知ったのだから、有り得ない。最も、この男はそんなことを知らないだろう。

「これでいいかしら?ちょっと寄らなきゃいけない所があるから先に帰るわね、じゃ」

男の呼び止める声も無視してベルモットは車のアクセルを踏んだ。