それは世界。
夜は決まって一人だ。共働き家庭であった私の家は寂しいものだ。そんな時は、紛らわすためにテレビを付けた。
初めて見た時、衝撃が走った。
一目惚れに近いだろう。大袈裟にいえばテロ、ジャック、そういう類のもの。流れていたのはただのドラマ。出演していた女優の演技に釘付けになった。
その演技をする姿がとても輝いて見えた。そのドラマの主役は決して彼女ではなかった。だというのに私は彼女の演技に引き込まれた。
気付いたら、テレビの前で彼女の真似事をしていた。
その瞬間だけは、自分が一人だということを忘れられて、とても好きだった。
明星千歳は女優である。
デビューしたのは数年前。因みに三十路手前だ。家賃の安いワンルームのボロアパートを借りて生活をしている。女優を目指してオーディションを受けたら見事合格して念願の劇団に入ることが出来た。それから数年間必死に努力して主役を務めることも増えてきた。そして今日も公民館で劇団の稽古をして、帰ろうとした矢先に。
そうだ、思いだした。私は……
「千歳くん、大丈夫?」
「え?」
ここは一体どこだ。(医療器具が揃っている。おそらく病院だ)
この女性は一体誰だ。(既視感をおぼえたが、こんな知り合いはいない)
この女性は何といった。(間違いなく千歳「くん」と言った)
何故目線が低い。(それは私の身体が小さくなっているからだ)
戸惑いが隠せない。
心配そうにこちらに目を向ける女に大丈夫です、と答えた。
それに対して女は「それなら良かった」と安心したように笑った。