「仕事があるから帰るのは夜遅いけど、大丈夫かい?」
「ちょっと馬鹿にしてるの?」そう言いたくなって思わず息を飲んだ。この後輩にとって私は明星千歳ではなく長谷川千歳なのだ。
「大丈夫、1人は慣れてるし!」
「……本当に大丈夫か?」
疑わしげに聞いてくる降谷に「大丈夫だって」と喧嘩腰に返す。
「……それじゃあ、ご飯は冷蔵庫にはいってるから、食べる時にレンジで温めてね」
はーい、と子供らしく返事をして追い出す。仕事があるだろう、はよ仕事行け。「知らない人が来ても開けちゃダメだよ」と念入りに注意する男を安心させるように「開けないから大丈夫だよ」と言った。鍵のかかったことを確認してリビングに戻った。
「やっと行ったか」
ホッとため息をついてパソコンの前に座りこむ。とりあえず、連絡はしておいた方がいいだろう。上は私が死んだと思っているだろうから念のため。勿論、降谷くんには黙っておくよう口止めしておく。彼のアドレスを使うわけにはいかないので、危険だがフリーアドレスを使わせてもらうことにしよう。このメールが私だという証明はない。だからこのメールに載せるのは、私の生存と手に入れた情報だ。居場所に関しては今いう必要も無い。
時下ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。目が覚めたら幼児化してしまい……。書き出しが思いつかない。本題を伝えられれば良いのだから適当でいいか。情報さえ伝われば意味がある。
そうと決まればささっと要件だけ書いて送信してしまおう。
メールを送信した頃にはお昼になっていた。ご飯は確か冷蔵庫に入ってると言っていた。近くに立てかけてあった脚立の上に乗り、ラップのかかったお皿を取り出す。レンジに突っ込み適当に温めボタンを押した。
相変わらず良い腕をしている。レンジから取り出そうとすると部屋中にいい匂いが広がった。
ロリコンか?ロリコンなのか?と疑いたくなるほど優しく扱ってくれる男に思わず困惑を浮かべる。それと同時に申し訳ない気持ちになった。
台所の値引きされた食パンが目に入った。
「まあ、降谷くんの為に作るなら使っても怒られないよね」
材料になりそうなものを片っ端から出していく。これでも料理には自信がある。オリーブオイルを多用し過ぎだと度々怒られることもあるけれど、腕はある。(と少なくとも私は思っている)
早上がりで夕方に帰ることが出来た。家には件の彼女がいるのだから早く帰れるに越したことは無い。インターフォンを鳴らしても返事は無かった。仕方が無いので鍵を使って開けた。
「ただいま」
部屋は静かだった。まさか、と思いリビングに行けば、少女はソファの上で寝ていた。彼女が起きる前に晩御飯を作ってしまおうと思い、台所に向かう。
「これは……」
台の上にはサンドイッチとメッセージが添えられていた。
『おしごとおつかれさま。むりしないでね』
作っている姿を思い浮かべて、思わず顔が綻んだ。