お米をよそう木の板
「みょうじ先輩、おはようございます。今日はこれを」
「おはよう緑間くん。いつもありがとう」
登校時間もピークを迎え賑わいを増す生徒用玄関口で、一際目立つ彼は私にしゃもじを手渡した。遠巻きに見守る通りすがりの生徒達が「しゃもじだ」「しゃもじだな」「今日はしゃもじか…」と呟くのが聞こえる。
「これ、持ってきちゃっておうちの人困らない……?」
「心配ありません、家にはもう一つあります」
「そ、そっか。じゃあありがたく今日もお借りします」
昔ながらの木でできたそれを握りお礼を言えば、緑間くんは「つ、ついでなのだよ」と言いながらメガネのブリッジを押し上げた。
初めて会った頃は見上げるほど高い身長とお世辞にも良いとは言えない愛想で戸惑うことも多かったが、慣れてしまえば意外と彼は表情豊かだった。今もこうしてそっぽを向く顔が照れたように赤くなっているのが見えて、男の子に対して失礼だが可愛いとすら思う。
「ったく、ホント素直じゃねーな真ちゃん!毎日早く渡したくてソワソワしてるくせに!」
「なっ高尾!テキトーなことを言うな!」
「おはよう高尾くん、緑間くんって律儀だよねぇ」
「うーん、俺からしたら毎日わけわかんねーラッキーアイテム受け取るみょうじさんの方が律儀っすけどねー」
呆れたように笑う高尾くんは、緑間くんの相棒らしい。初対面でも三秒あれば友達になれる高尾くんと、取っ付き難く癖のある緑間くんは不思議と相性が良かった。よく性格が正反対の方が合うなんて言うけど、二人はまさにその言葉を体現していると思う。と、少し前に緑間くんに言ったら物凄く嫌そうな顔をされてしまったが、私は今でもそう思っている。
小さく会釈をする緑間くんとひらひらと手を振る高尾くんに手を振り返し、一年と三年で教室の階が違う私達は、階段で別れる。渡されたしゃもじを鞄に仕舞い、足取りも軽く教室を目指した。