白黒の笹を食べる人気者
『真ちゃんって七夕生まれなんすよ!』

高尾くんにそう言われたのは一週間前のことだった。
その時は「そう言えば蟹座だったなぁ」とか「星に願う七夕生まれって似合うなぁ」とか、そんなことをぼんやりと思っただけで、特に何か考えてはいなかった。
けれど、毎日何かと良くして貰っている身として、何かお祝いしなければならないのでは?と思い至ったのは七夕の三日前だった。我ながら遅すぎる。

「そんなわけで、緑間くんて何が好きかな?」

持つべきものは件の後輩と同じ部活の宮地くんだ。昼休みに自席でパンを齧る宮地くんに突撃し、ついでだからと一緒にお弁当を食べながら、尋ねた。
宮地くんは心底訳が分からないと言った様子で顔を顰めたが、しかし一応真面目に考えてくれるようで宙を見上げる。

「緑間の好きな物……?」
「うん、何でもいいの」
「あー、そう言えばアイツお汁粉が好きで夏でも飲んでたな」

お汁粉。予想だにしていなかったものに思考が止まったが、確かに校内で出会った時に缶のお汁粉を持っていたことを思い出し、納得した。
甘いものが好きなのだろうか。メモ帳に書き留めながら、意外な好みに可愛いなぁと笑みが零れる。

「アイツに何かあげんのか?」
「七日が緑間くんの誕生日なんだって。いつもラッキーアイテム持って来てくれるから、お礼も兼ねて何かお祝いしたいなぁって思ってるんだ」
「律儀だな……」

呆れ顔の宮地くんにお礼を言い、書き留めたメモを眺める。今朝方廊下で会った大坪くんと木村くんから聞いた「ピアノ」「クラシック」と言う緑間くんイメージ通りの単語の羅列に、けれど今ばかりは頭を抱えた。

「クラシックとか好きならきっと自分で色々持ってるよね……」
「アイツそんなん好きなのかよ……キャラ濃過ぎだろ……」

げんなりと言った表現がピッタリな顔をした宮地くんに思わず苦笑する。確かに宮地くんはしっとりとしたクラシックよりも現代的なロックなんかが似合いそうだ。実際にはアイドル好きらしいが。

「宮地くんは誕生日に貰うとしたら何が無難に嬉しい?」
「オレが?……そう言われると難しいな」

参考までに同じ男子高校生の意見を問うも、今度は宮地くんを悩ませてしまった。他愛もない質問なのに真剣に考えてくれる辺り、宮地くんは面倒見の良い先輩なんだろうなぁと思う。
暫く首を捻って考えていた彼だったが、やがて紙パック刺さったストローを啜りながら肩を竦めた。

「気持ちだけでも有難いし、物とか特にいらねーかな」
「そっかぁ……難しいね」
「まーでも、緑間は変わりモンだから一般的な回答は当てはまらないんじゃないか?」
「た、確かに……」
「けど、アイツだって人間だ。こうやってみょうじが真剣に悩んでくれてるだけで嬉しいと思うぜ」

「あんま参考になんなくてワリーな」と苦笑いしながら、宮地くんは立ち上がりがてら私の頭を二三度やんわり叩いた。弟や妹をあやす様なその行為に、そう言えば彼にも弟が居たと言っていたことを思い出し、面倒見の良さに合点がいく。
色んな人に協力を仰いだのだから、何としてでも喜んでもらえるものを考えようと、人知れず気合を入れた。

***

そして迎えた七月七日。
気合を入れたものの、これと言うアイデアも浮かばず、苦し紛れに用意した物を小さな紙袋に入れて朝練終わりの緑間くんを待つべくバスケ部のいる体育館に訪れた。
空調の効いていない廊下はムシムシと暑く、額や背中にじんわりと汗が浮くのを感じる。

「……みょうじ先輩?」

暑さにぼんやりとしていると、いつの間にか終わる時間になっていたのだろう。怪訝な顔をした緑間くんが少し腰を屈めて私の顔を覗き込んで来たが、前夜も悩み過ぎて寝不足な私は珍しい緑の髪と眼鏡の奥の瞳に見とれ、「綺麗だなあ」なんて呟いて彼を狼狽させた。

「き、綺麗などと男が言われても嬉しくないのだよ!」
「えっ!?あれ!?ごめんねぼーっとして口から出てた……!?」

頬を蒸気させて憤慨する緑間くんに、漸く我に返った私はただただ平謝りするほか無かった。情けない。
やがて落ち着きを取り戻した緑間くんは眼鏡のブリッジを押し上げながら、チラリと横目でこちらを見下ろした。

「……それで、みょうじ先輩は誰に用事ですか」
「えーと、緑間くん、なんだけど」
「は?」
「あの、お誕生日おめでとう」

半ば投げやりになりつつ、持っていた紙袋を差し出す。当の本人は先程の私のように呆けていたが、如何せん顔の作りが違いすぎるためにそれすらもさまになっていた。
ぎこちない動作で紙袋を受け取った緑間くんは、控えめに「開けても?」と言うので、頷く。

「これは……」
「宮地くん達に色々聞いたんだけど、良いものが思い付かなくて……」

彼の手に収められたお汁粉の缶と、小さなパンダのぬいぐるみ、細長い短冊と緑色のペンに、やはり別の物が良かっただろうかと不安が胸を渦巻く。
欲しい物が分からなければ本人に聞こうと考えたわけだが、直接聞くのも遠慮されそうで『貴方の願い叶えます』と短冊を用意したのだ。ラッキーアイテムとお汁粉だけではなんだから、最悪冗談で済ませられるような物を選んだのは、私の精一杯の工夫だった。
不安と居た堪れない気持ちを誤魔化そうと、少しおどけた雰囲気で言い訳を並べ立てるが、彼の顔は見られない。

「緑間くんは何でも自分で叶えちゃいそうだけど、」
「いえ、有難うございます。ここぞと言う時に使わせて頂きます」
「えっ」
「叶えてくれるんでしょう?」
「私に出来ることなら善処します!」

有難うだなんて言葉に思わず顔を跳ね上げた。真面目な顔でカチャリと眼鏡を押し上げながら言われてしまえば、今更無かったことにも出来まい。勿論、出来る範囲で叶える努力は元よりするつもりではあったのだが。
けれど緑間くんがこの手の物を素直に受け取ってくれるとは思っていなかったので、驚いた。そして同時に、何の不満も洩らさずに受け取ってくれた事への感激が胸に押し寄せ、知らず頬が緩む。

「パンダのぬいぐるみは、今日の蟹座のラッキーアイテムなのだよー」
「真似をしないで下さい。勿論俺も持って来たのだよ」
「ごめんね、被っちゃった」
「いいえ、二つあれば効果も二倍。今日の俺は怖いものなど何もありません」

出会って数ヶ月の間で、随分軽口を叩けるようになったものだと他人事のように感心してしまう。
夏の暑さとは違う熱を内に感じながら、ただ幸せだなぁとほんの少し顔に赤みを残した長身の後輩を見上げて思った。



緑間さん誕生日おめでとうございました!
(170708)



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