春が来た。

風に舞い、ヒラヒラ落ちていく桜が地面に着く頃。
目の前にいた彼女から、名前を呼ばれる。

「廉くん」
「ん」
「お仕事、楽しそうだね」
「うん」

幼い頃から、そばにいた。

あの頃より少し大人になった彼女の前で、俺は、まだ出来上がったばかりの台本をペラペラとめくっていた。


仕事は楽しい。
歌うことも、演じることも。
今では自分の一部だから。

アイドルとして、これからもずっと、キラキラ輝くスポットライトの下にいたいと思う。







「〇〇」
「ん?」
「そろそろ観にこぉへん?公演」
「……」
「気が向いたらでもえぇよ」
「ん」
「えぇけど、そろそろ、来てほしい」

ちょうど運ばれてきたミルクティーのグラスに口をつけ、ジッとこちらを見つめた彼女と目が合う。

幼い頃と同じ。そのまん丸な瞳に見つめられると、どうも落ち着かなくて。
視線を逸らした先。にこりと綺麗に弧を描く彼女の唇に、少しドキッとした。

「廉くん」
「ん」
「ありがとう」

頑張ってね。
曖昧に笑って呟いた彼女の表情は、少し寂しそうだった。