幼い頃、ずっとそばにいてくれた幼じみのことを、今でもまたに思い出す。

同い年で、当時近所に住んでいたその子は、物心付く前から、わたしの隣にいたそうだ。


覚えているのは、そんな彼が昔からとても可愛らしい顔立ちをしていたということ。

羨ましくて、「廉くんはいいなぁ」と呟いたわたしに、「〇〇だって可愛いよ」と返してくれた笑顔を、今でもぼんやり覚えている。

幼心に、とても嬉しかった言葉。

当時一番近くにいた彼の存在は、わたしにとって、特別だった。






「つまんないんよ、お前といても。つーか、誰といても変わらんわ」


中学に入ってすぐ。

それまでずっと一緒にいた彼から、初めて拒絶された。


元々要領が良く、なんでも出来てしまう彼は、みんなの人気者で。

わたしは、ただ純粋に、そんな彼に憧ていた。



幼い頃、何度も繋いだはずの手は、あの頃よりもずっと大きくなっていて。

それまで、ずっとそばに感じでいた彼のことを、もう気軽に「廉」と呼ぶことは出来なくなった。








「え、うそ。あの永瀬廉と知り合いなの」
「う〜ん、知り合いっていうか、昔家が近かったから、少し話したことがあるくらいだけど」
「それでも凄いって!昔からカッコ良かったの?」
「どうだろ、小さい頃の話だから、あんまり覚えてないや」

変わり始めた廉に縁を切られ、彼のいない日常が当たり前になった頃。
気付けば大学生になったわたし達の関係を知る者は、周りには、もういなくなっていた。


この数年の間に有名人となり、わたしなどでは簡単に会うことさえ出来なくなった廉。

街中で、彼の歌を聴く度。
彼の顔を見る度。
痛いほどに思い知った。

やはり、彼はわたしとは違う。


昔のことなんて、思い起こそうとしても、もうほとんど思い出せなかった。








「でも楽しみだよね、ほんと」
「ね!まさかウチの大学で撮影なんて」
「運良くすれ違えないかな」
「それ!」

大学4年の春。

廉は今、どうしているだろう。


スマホ片手にキャッキャと騒ぐ友人達の会話に相槌を打ちながら、久しぶりに彼のことを考えたランチの直後。

いつもの午後。

いつものキャンパスで、一つだけ、いつもとは違う光景を見つけた。








「………廉、くん?」

なんとなく、彼を昔のように「廉」と呼べなかったのは、久しぶりに見たその姿が、余りにも昔とは違っていたから。


明るく染められた髪も。
ぐんと伸びた身長も。

何もかもが自分のよく知る彼とは違いすぎて、思わず一歩後ずさったわたしのことを、彼は、ただジッと見つめていた。


一秒、二秒と、視線が絡まってから数秒。
沈黙が苦しくて、先に目を逸らしたのはわたしの方。


もう気軽に接することは出来ない。

顔馴染みだとしても、言葉を交わすことすら許されないだろうと、すぐにその場を立ち去ろうとするわたしは、彼の方を見なかった。






「〇〇」
「……ぇ」

しかし、彼はわたしのことを呼び止めた。


「お前〇〇やろ。廉、覚えとる?」

何年振りや。
元気にしてたか。
お前、大学ここやったんやな。

わたしが〇〇だと認識するなり、そう言って一方的に声をかけてくる彼に、上手く言葉を返せなかった。

「お前なにビビってんねん笑」
「いや、」


そして、この日を境に、彼は何かと理由を付けては、わたしの前に現れるようになった。