事務所の創立記念パーティーがあるから、次の土曜は帰りが遅くなる。

何気なくそう言った彼女の言葉に、なんとなく不安を感じたのは致し方無いだろう。

「パーティーってなに。どの程度の規模なの」
「うーん……呼ばれるのは、事務所のお得意様とか、代表の知り合いとか、」
「えぇ……何そのいかにもなパーティー。権力者の集会かよ」

彼女の職業柄、人脈作りの為にもそういう場所へ出席することが大切なのは分かる。

しかし、ただでさえ男社会の業界だ。

若くて可愛い。
それだけで格好の餌食になることが安易に想像出来てしまったからには、俺に大人しく待つという選択肢は無かった。


「にしても豪華なパーティーだねぇ、何人いんのこれ」
「いやそこちゃうねん。何してん、自分」
「何って、招待されたから来たんだけど」
「はぁ……どうせあいつのコネやろ。用意周到な奴やな」

ブランド物のスーツに、ブランド物の時計。
どこからどう見てもきちんとあの事務所の招待客に相応しい装いで現れた俺に、ソイツは呆れ顔で溜め息を吐いた。


「で、名前は?」
「さっきあっちにおったけど、何?一緒に来たんちゃうの?」
「うん。だってアイツ俺がいること知らないもん」
「は?」
「ん?」

ポカンと口を開けたソイツが指差した先には、シックな黒いドレスを着こなす名前の姿。

「うわぁ、やってるよ、」
「アンタようアレ許したな」
「許してないよ知った時にはもう決まってたの。付き合いだって言われたら無理に止めらんないし、束縛し過ぎる男は嫌われるでしょ?」
「束縛云々の前にストーカーやん」
「何?」
「なんもないっす」

いつの間に用意したのか。名前が着ているドレスは、裾もふわふわしていてめちゃくちゃ可愛い。が、とにかく胸元が空きすぎている。

何あれ。あんなに見せびらかす必要ある?Vネック深すぎなんだけど。万が一屈んで見えたりしたらどうすんの?と既に気が気じゃなかった。


「まぁ心配なんはわかるけど、アイツの仕事の邪魔だけはせんようにな」
「分かってますー」

ニコニコ笑って、自分よりずっと年上の招待客と名刺の交換をしている彼女の様子を見守る。

「……可愛い」
「あんたそんなキャラなんやな、」

仕方がない。しばらくは様子を見るだけに留めようと、受け取ったローストビーフをかじりながら、擦り減りそうになる心を落ち着かせた。