『すいません、コレもお願いします』
「なんでやねん」
コンビニのセルフレジで会計ボタンを押す直前。
横から入り込んできた手が、勝手にアイスを追加した。
『お支払いはカードですか?バーコードですか?』
「……バーコードで」
『じゃあここにスマホかざして』
「……」
『お買い上げありがとうございました〜!』
「腹立つ笑顔やな」
ちゃっかり人の金で買ってもらったアイスを手に持ち、
嬉そうに笑う〇〇にデコピンを送る。
季節は夏。
これから忙しくなるね、と申し訳なさそうに笑っていたマネージャーの言葉通り、
今日も打ち合わせが終わったのは日付けが変わる頃だった。
『お疲れ様』
「おー」
『明日何時から?』
「4時入りやって」
『生放送だっけ?』
「そ」
『見れたら見るね』
「お前その時間撮影やろ」
『だから、見れたら見るって』
「絶対見んやん」
知ってるけど。
そうは言っても、こいつがちゃんと時間を作ってくれるってこと。
きっと明日の生放送が終わる頃には、アプリの通知がエグいことになって、
俺はそれに文句言っとるんやろなぁ、なんて。
「はー、ねっむ……」
『撮影ある間は夜ふかししないでちゃんと寝なよ?』
「分かっとる」
『あとご飯も。面倒だからってちゃんと食べないと
現場まで押し掛けて無理矢理押し込むからね』
「だっる、笑」
『なに押し込まれたいか考えといて』
初めて会った時は、こんな図々しい奴やと思わんかった。
そもそも年下やと思っとったし、
何でこの世界にいるのか不思議なくらい大人しくて、
正直、あんまり仲良くなれる自信も無かった。
廉「なんか懐かしない?」
『ん?』
廉「昔さ、こうやって一緒にコンビニ行ったやん」
東京で、初めて大きな仕事を任された頃。
現場で顔を合わせた〇〇の第一印象は、単純に"可愛い"だった。
自分も人見知りやったからよく分かる。
こっちをチラチラ気にしながらも、岸さん達の横から動かない姿を見て、
あぁ、きっとめちゃくちゃ緊張してるんやろなぁって。
『………』
「……」
目が合っても、慌てて逸らす〇〇の視線は行ったり来たり。
だけど、試しにもう一度目が合った瞬間ニコリと笑ってみせると、
それが予想外だったのか一瞬大きく目を見開いて。
そのまま、嬉しそうにほにゃっと崩れる表情に全てを持っていかれた。
「〇〇ちゃん」
『、はい』
「廉」
『?』
「廉って呼んでよ」
それが、〇〇との初めての会話。
今思えば、あまりにも下手くそな歩み寄りで、
あまりにも下手くそな気遣いだったと思う。
驚いて黙り込む〇〇に、
岸さん達からもの凄い視線を感じたのも覚えてる。
「ごめん、やっぱ慣れてからでも全然、」
『廉くん』
「え、」
『ありがとう、廉くん』
その"ありがとう"が、〇〇の中で何に対するありがとうだったのか。
答えは未だによう分からんけど、
きっと、あの歩み寄りは間違いじゃなかったと思う。
『あの頃はカッコ付けてなんでも奢ってくれたのにね』
「今も奢ったやん」
『昔はもっとスマートで優しかったもん。
目合ったらニコッとしてくれてさー、廉は覚えてないかもしれないけど、』
『わたし、あの時ほんとに嬉しかったんだよ』
残り一口になったアイスの棒を咥えて、
懐かしそうに俺を見る〇〇。
「………覚えとるん?」
『当たり前じゃん。廉、あの時から距離感バカだったよね』
「アホ、それは……」
誰にでもそうやったわけやない。
お前だからやろ。
思わず口から滑りそうになった一言を噛み締め、
隣の〇〇をジッと見つめる。
『ありがとね、廉』
「………」
『アイス、めちゃくちゃ美味しかった』
なんやねん。
心の中で呟き、あの頃と変わらない笑顔でほにゃりと笑う〇〇に、手を伸ばす。
そういえば、昔はちょうど同じくらいだった目線も、
今じゃ俺の方がずっと上にあるんやもんなぁ、なんて。
「撮影、頑張るわ」
『うん、見るの楽しみにしてる』
「またコンビニ行こ』
『廉の奢りならね』
「次はデザートも買ったるわ」
『なーに廉、優しいね』
「あほ、俺は昔から〇〇には優しいわ」
『うん、知ってる』
翌日。
予想通り通知でいっぱいになったスマホの画面を見て、
ニヤリと上がる口角を抑えた。
"合間にちゃんと廉に会ったよ"
"テレビにイケメンいるなーと思ったらまた廉だった笑"
"れーん"
"れんれーーん"
「まーじで俺のこと大好きやん……」
自分も忙しいのに。
わざわざスマホ開いて俺にメッセージを送ってくる〇〇が可愛い。
そういや、昨日繋いだ手も
ちっさくて女の子って感じやったもんなぁ、なんて。
まぁ、そんなこと本人には絶対に言ってやらんけどな。