何かイベントがあるわけではない。

ただ普通の、なんでもない平日の昼下がり。

前を歩く見慣れた背中に、
ねぇ、と声を掛けて立ち止まった。

「ん?」
『どこまで行くの』

散歩がてら、ちょっと歩くだけだから。

そう言って、わたしを連れ出した紫耀は
鬱陶しそうに長い髪をかき上げながら振り向いた。

「いいじゃん。たまには行く宛も無くデートしたって」
『……これデートだったの?』
「うん。お散歩デート」

帽子も、マスクも。
わたしに至ってはサングラスも無い。

そんな変装ほぼゼロの状態で紫耀と外を歩くなんて。

考えてみれば、初めての経験かもしれなかった。


『世の中のカップルは、
みんなこうやってなんとなく散歩とかするのかな』
「じゃない?終電逃して一緒に夜道歩いたりとかさ」
『それで、人がいないのを良いことに大声で歌ったりとかね』
「ふは、そうそう。俺ならなに歌うかな〜」

ニコニコ笑って、楽しそうに話す紫耀が可愛くて。

半歩前にいたその背中に肩を並べ、
空いていた手に自分の手を重ねてみた。









「ん?」
『だって、デートなんでしょ』

たまには、これくらい許してよ。

不思議そうに首をかしげる紫耀に笑みを向ければ、
何も言わずとも、同じように笑って返してくれる。


わたし達は、もちろん恋人同士という甘い関係ではないけれど。

それとはまた別に、
お互いのことが大好きで、とても大切だから。


「きーめたっ」
『ん?』
「今日の一曲は僕のワルツです」

繋いだ手を勢い良く振って、
君を〜 と気持ち良さそうに歌い出す紫耀の隣をゆっくりを歩いた。




『ふふ、意外と楽しいね、ただ歩くだけでも』
「でしょ?」

「ねぇ〇〇」
『ん?』
「写真撮ってもいい?」
『今?……ていうかわたしを?』
「うん。デートの記念にね」
『じゃあ、ちゃんと可愛く撮ってね』
「任せろ」