「俺、浴衣の着付けなんか出来ないよ」


地元の夏祭り。

憧れの先輩と二人きり。

わざと仲間の輪から離れて
絡め取られた手を握り返した。

「……っはぁ、」
『待っ、…せんぱ……』
「紫耀」
『ん、……』
「ほら、紫耀って言って?」

アパートの扉を開けると、
先にわたしを中へ通した先輩が、
覆い被るように体を壁に押し付け、キスをしてきた。

















仲の良いグループが3つくらい合体して、
そこそこの大所帯で訪れた花火大会。

女子は気合いを入れてみんな浴衣姿だったが
その目的は、ほとんど一人と言っても過言では無かった。

「〇〇ちゃん、ここソース付いてる」

未だによく分からない。

学内一番人気の紫耀先輩が、
何故あんなにたくさんいる女の子の中から
わたしを選んで二人きりになったのか。

『ありがとうございます、』
「違う。そこじゃないって」
『、……』
「ふは、俺が取っていい?」

緊張で、全く味がしない焼きそばを両手に抱えながら
目の前でくしゃっと笑う先輩の笑顔にきゅんとした。

「一瞬目瞑って?」
『え、』
「目の下にまつ毛も付いてるから」

ほんとかなぁ。

ニコニコ笑う先輩に、
もしかしたら揶揄われているだけなんじゃないか。

思っても、結局、次の瞬間には
それでもいいやと目を瞑っていた。











『……、…』
「……ふ、かわい、」

くすりと笑う先輩の吐息が唇をかすめ、
そのまま、もう一度唇が重なった。

「〇〇ちゃん、このままウチ来ない?」

顔のサイドに流した少し長めを耳にかけ、優しく微笑まれる。

こんなズルすぎる先輩の誘いを、断れる人なんているのだろうか。


「あ、そういえば」
『?』

ごめん。俺浴衣の着付けとか出来ないから。

家までの道中。

そう言って、イタズラに笑う先輩に繋いだ手をグッと引っ張られる。

『良いですよ。良くないけど』
「ふは、何それ」
『他の人なら嫌だけど、先輩なら、』

わたしにとっては、これが精一杯。

繋いでいた手にぎゅっと力を込めて、
すぐ隣にある整った顔を見つめ返した。

「〇〇ちゃん」

かわいすき。

呟いて、ちゅっと軽くおでこに触れた先輩の唇に
二人で顔を見合わせながら笑い合った。