「お姉さん、朝ですよ」
「ん、」
「おはよーございます」

朝が弱い彼女の代わりに、淡いクリーム色のカーテンを開ける。

差し込む日差しに、うぅ、とくぐもった声を上げるその姿が、どうしようもなく愛しい。
眠そうにぎゅっと目を閉じる彼女のおでこにかかった髪を、優しく避けて微笑んだ。

「そろそろ起きないと、ほんとに遅刻するよ」
「きしくん、」
「ん?」

うっすら目を開けた彼女が、ぎゅ、と掴んだ俺の手に顔を擦り寄せる。

「おはよう、」
「……ん、おはよ」

本当に可愛い人だと思う。

年上なのに、子どもみたいに笑う。

俺の手を握って、幸せそうに頬を緩ませるその笑顔が、どうしようもなく好きだ。

「へへ、かわい、」





朝7時。
決まった時間に、決まった場所へ向かう彼女の支度を、いつものように手伝う。

朝飯は簡単なシリアルだけ。
体壊すからもっと食べなよと言っても、彼女は頑なにそれしか食べなかった。
リスみたいに、頬いっぱに詰め込んだシリアルを咀嚼しながら、器用に瞼に色を乗せていくのを、いつものように見守る。

「岸くん」
「ん?」
「スマホ鳴ってるよ」
「あー、」
「出ていいよ?」

画面には、上司の名前。
正直、今この時間を誰にも邪魔されたくない。

しかし、そんなわがままが通用しない相手だけに、ムッとする俺に、クスクス笑う彼女。

「はい」

自分でも分かるくらい不機嫌な声だったと思う。

しかし、電話の向こうにいる上司は、そんな俺の機嫌にも気付かず、朝から上機嫌で。

あぁ、面倒くさ。
早く終わらないかな、と話を半分も聞いていない俺に、目の前にいた彼女が、ニッコリと微笑む。






「 ( ゆ ー た ) 」
「……」

口パクで、楽しそうに俺の名を呼ぶ彼女と目が合う。

同時に、テーブルの下でコツンとぶつかる足。
絶対にわざと。

その後も、ニコニコしながら俺の足を突っついてくる彼女に、口角は上がるばかり。

電話の声なんて、もはや何も入っていない。

「 ( ゆ う た ) 」

ゆーた、ゆーた、と。しつこいくらいに俺の名を呼ぶ彼女の姿が、愛おしくて仕方ない。

ほんとに好き。

空いた手で、楽しそうに笑う彼女の両頬を潰せば、タコのように唇を尖らせたまま、こちらを見つめる姿にキュンとする。

「岸くん」
「キスしていい?」

電話は切った。
テーブルに乗り出し、距離を詰める。

伸ばしていた手を頬に添えれば、大人しく目を閉じてくれた彼女に、唇を重ねる。

あ、今日は美味しいやつだ。
自分の唇に移った甘い味のリップをペロリとひと舐めし、もう一度、誘われるように、そこへ噛みついた。

「、ん」

漏れる吐息も、全部愛おしい。

好きで、好きで、大好きでどうしようもない。



食べ終わったパスタのお皿を片付けながら、こちらを見て微笑む彼に、首をかしげる。



「好き」
「え、」



口に入れようとしていたプチトマトが、ポロ、と箸から滑り落ちた。

目の前の新は、そんなわたしを見て、ヘヘッと嬉しそうに笑っている。


なんて、ズルい人なんだろう。