デビューして大変な事ももちろんありますけど、わたし個人としてはジュニアの頃の方がしんどかったです。

楽屋に置いてあった雑誌に掲載されていた〇〇の記事に、書いてあった一文。
それを見て当時のことが気になったのか、なぁ、と声を掛けて来た廉に、昔のことを思い出す。

「廉と紫耀はイベントとかで一緒にならない限り会えなかったもんね」
「おん、全っ然こんなイメージ無い」
「〇〇、昔は今よりずっと余裕無かったからなぁ」

多分、一番キツそうだったのは映画の仕事が立て続けに来た頃。忙しい撮影の合間で、ジュニアの単独公演にも出演が決まって、疲弊した〇〇は、ほぼ毎日岸くんの横でしょんぼりしていた。

* * *

岸「フリちゃんと入った?」
『半分くらい……?岸くんも今回久しぶりなんでしょ。大丈夫?』
岸「分っかんねー。ギリギリかな」
『みんなフリ覚え早くて凄いよね。一回でほとんど出来るようになるじゃん』
岸「それなー。ほんとすげーよな」
『着いて行けないと迷惑かかるし、なんとか頑張らなきゃって思うけど、たまにちょっとしんどい……』
岸「うん、」

元々、ダンスが苦手な〇〇。
その上、周りは公演慣れした先輩達がほとんどで、より一層、焦っていたんだと思う。

岸「どこが分かんない?」
『全部』
岸「ははっ、じゃあ俺と一緒だな!」
『そんなこと言って岸くんさっき踊れてたじゃん』
岸「〇〇もね。俺からしたら充分踊れてたよ。先輩達だってそう言ってだろ」
『でも自信無い、』
岸「まあなー。それは分からんでもないけど、」
『………』
岸「食べる?」
『うん、』

当時、ちょうど久しぶりに公演に出る岸くんと〇〇は、立場が似ていた為か、稽古中もずっと二人で一緒にいた。
先輩からフリを教わり、二人でそれを復習し、確認し合う。

元々岸くんに頼りがちだった〇〇だけど、この時はそれがより顕著で、ちょっと羨ましかった。

「〇〇と岸はほんといつも一緒にいるな」
「まぁ兄妹みたいなもんですからね」
「お前は違うの?ほぼ同期でしょ」
「う〜ん、でも岸くんには敵わないっすね」
「〇〇って何であんな岸に懐いてんの?」
「さあ、何ででしょう」

なんの躊躇いも無く、岸くんの手からおにぎりを餌付けされている〇〇は、多分、岸くんの隣にいるのが一番安心するんだと思う。本人は無意識だろうけど、疲れた時とか、甘えたい時は、大抵あぁしてジッと岸くんの横にくっ付いている。

いいなー。
この現場にいるほとんどメンバーは、岸くんを見てそう思っていたはずだ。
だけど、誰もそれを邪魔しないのは、二人にとって、あの時間がとても大切なものだということが分かっていたから。

岸「っし、それ食ったらもう一回フリ確認するか」
『うん』

岸「しんちゃーん!暇ー?」
慎「暇じゃねーよ笑」
岸「確認手伝って!」
慎「休憩は?もういいの?」
岸「うん!〇〇も大丈夫だと思う」

練習の為、自分と別れ、パートが同じ先輩のところに行く〇〇の方を見つめ、安心したように笑う岸くんは、この頃からずっと〇〇のことをよく気に掛けていた。
だからこそ〇〇も、困った時は岸くんなんだと思う。

* * *

「大変だったんだよ、直前までずっと俺達んとこでフリ確認しててさ」
「それは今もやん」
「今は楽しくて体動いちゃうって感じだけど、あの時は余裕無くて必死って感じだった」
「ふーん、なんか意外やな」
「昔はほんっっとにカッコよくて頼れる先輩だったんだよ、岸くん」
「おいなんの話だよ昔はって強調すんな」
「あれ、聞こえてた?笑」
「聞こえるように言っただろ!」」

このやろー!と俺の首に巻き付きながら戯れてくる岸くんに、