「そういえば〇〇ちゃん、スマホ鳴ってたで」
「なんだろ、公式のクーポンかな」
「そこは彼氏かな?でえぇやん」
「それ今一番ありえないこと知ってるよね?なに?喧嘩売ってる?」
「おーこわっ」

永瀬くんと一緒に席へ戻り、置いていたスマホを確認すると、確かに一件の通知が入っていた。

やっぱり、相手は彼氏ではない。
しかし、それは予想していたクーポンでもなかった。

「なに?え、紫耀やん」
「あ、そっか。部署一緒だもんね」
「仲良かったん?」
「うーん……仲は、」
「いいよね」
「え、」
「あら」

"不在着信 平野紫耀"

わたしのスマホに表示された通知を二人で見ていると、後ろから、急にそれを覗き込むように声を掛けられた。

「なんだ平野か。ビックリするからやめてよ、」
「ごめんごめん、電話繋がんなかったからさ」
「なんか用だった?」
「ううん、別に」

なら何で?
わたしが聞く前に、隣にいた永瀬くんが平野を見上げた。

「海人経由か」
「そう」
「ふーん」

以上。

その後は特に会話することもなく、わたしの両サイドに腰を掛けた二人と、それぞれ話をした。


「てか、時間大丈夫?そろそろ彼氏に連絡したら?」
「しても、どうせ楽しそうだねーとか言って、ヘラヘラ笑うんだよ……」
「えぇ彼氏やん。理解あって」
「普通彼女が飲み会行くとか言い出しらちょっとは心配しない?なんにも無いんだよ?!」
「ならそれを言えばえぇやん」
「そんな簡単に言うなって。〇〇には〇〇の不安があるんだから、」
「だっる、そうやってなんにも言わんから向こうの気持ちも分からなくなるんやろ」
「それ永瀬くんにだけは言われたくない……」
「腹立つなぁ…」
「こら、やめろって」

ぎゅっと頬を摘まれ、永瀬くんのことを睨み付けると同時に、反対から平野の手が伸びてきた。

「お前はコイツに甘すぎやねん」
「そんなことないから。廉は付き合ってもない女の子に距離近過ぎ。彼女いるでしょ」
「だからなんやねん。彼女は今関係無いやろ」
「あるよ。そういうことするから彼女が不安がるんだって。前にも言ったじゃん」
「あー……だるっ……」
「すぐそうやってダルいダルい言うのも感じ悪いからね」
「お前は俺のかーちゃんか」
「?違うけど」
「知っとるわ」

不機嫌そうに、ムッと眉を寄せた永瀬くんがわたしの方に視線を向ける。

「別れてしまえ」
「っな……!?」
「こら廉!」

まさかの言葉すぎて、さすがに驚くわたしの代わりに、平野が永瀬くんの頭を叩いた。

もちろん全力ではないと思うが、そこそこ体格の良い平野と、見るからに華奢な永瀬くん。
ご想像の通り、叩かれた彼は、いってぇ……っと呟きながら蹲った。

「今のはさすがにダメ。ごめんなさいは?」
「せんよ。本気やもん」
「それもっとダメじゃん。なに不貞腐れてんの」
「紫耀やっておんなじこと思っとるくせに」
「は?」
「おーこわっ、めちゃくちゃキレるやん」
「………」

わたしを挟んで、本気なのか冗談なのかイマイチよく分からないやり取りをする二人。

ここで変に口を挟んでも良くないかと静かに成り行きを見守っていると、そんな沈黙をぶち壊すように、わたしのスマホが音を立てた。

「…………あ、優太だ」

まさかの、向こうからの電話。

「彼氏?」
「あ、うん……」

これには、どうやら永瀬くんも驚いたようで。
良かったやん、と小さく声を掛けてくれた。

「出てきなよ。心配してるんじゃない?」
「あ、うん……ごめんね」
「何が?俺達のことは気にしなくていいから」
「……ありがと」

相変わらず優しい平野の言葉にうなずき、人の少ない店の外まで移動した。


「もしもし」
『あ、〇〇。ごめん、せっかく飲んでた時に、』
「ううん、ちょうどもうそろそろ出ようと思ってたとこだから」
『そうなの?すぐ出る?』
「うーん……30分もすれば、」

自分で言ってて、それはすぐじゃないだろうと思う。
けれど、その言葉を聞いた優太は、すぐに「おっけ!」と呟き、店の中で待っているようにだけ伝えると、電話を切った。

どうやら、本当に来てくれるらしい。

言葉は無くても、少しは心配してくれたのかな、と緩む頬を抑えながら席に戻ろうと居酒屋の扉を開ける。

"俺だけやない男にも優しくされとるからなー"
"満たされて超ご機嫌"

「………」

嬉しいはずなのに、急にそんな言葉を思い出したのは、何故だろう。