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アーカードのデザート
仕方ない、というのは彼の最大の譲歩であるらしい。
「本当は頭から足の先まで飲み干したいのだが、そうなるといかんせん人間ではなくなってしまう」
「物凄い物騒なセリフですが、人並みに気遣いが残っている事に安心しましたよ」
「自身の眷属の血を飲むなど、悪趣味も甚だしい」
「……あぁ、はい。そうですか」
ドラキュラのよく分からない感性はともかく、アーカードさんは人間としての私の血が非常に好みらしい。早く、と急かす何百歳の化物に、私は渋々ナイフを取り出して自分の指を切ろうとする。元々戦闘兵でもない私がナイフを持つのは護身用もあるが、大体はアーカードさんに血をあげる為に留まっている。
「………」
「どうした?」
痛いのは、あまり好きではない。
「ようやく私に血を与えるのが嫌になったかね?いや、君はそれ程露骨な態度を出す女じゃない。それならば……」
白い手袋をした大きな掌が、私の矮小な手を包む。
痛みは嫌いかね?と地の底から響くような声が耳元で囁いた。
「大丈夫、痛みは一瞬だ。この鋭利な刃先は、君の白くて健康な皮膚をあっという間に裂き、赤く豊潤な血を流す。たったそれだけだ」
その恐怖さえ素晴らしい、と残す彼の笑みは、最早私にとって嫌がらせ以上の何ものでもない。