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私が答えると、アルバートさんは怪訝な顔をした。
なんでだろう?
「……君は、記憶を失っているのではないのか?」
「えっ!?」
あ、そうだった…
まずい!なんとか誤魔化さないと…!
「そ、それは…兄さんが教えてくれたんです!」
私がそう言うと、アルバートさんは複雑な表情を浮かべていた。
「では、ネイサンのことも覚えていないのか?」
「は、はい。覚えてないんですが、僕にはとても良くしてくれますから、嘘ではないと思います。
兄さんじゃなかったら、こんな僕の面倒をみてくれるはずがありませんから。」
アルバートさんは、その言葉に微笑んだ。
「確かにその通りだな。
私が仕事を依頼した時も、君を置いていこうとはしなかった。
失礼だが、置いて行った方が楽だと思ったのだが…」
「はい、だから、やっぱり本当の兄さんだと思うのです。」
「あぁ、私もそう思うよ。」
そう言ったアルバートさんの笑顔は、なんだかとっても優しくて…
そのことが、私は妙に嬉しかった。
アルバートさんは、どこかのお偉い貴族様みたいだけど、高ぶったところがないし、感じの良い人だ。
最初は私のことを疎ましく思ってるんじゃないかって思ってたけど、意外とそうでもなかったし。
顔が綺麗で良い人なのに、まだこんな若くで死んじゃうなんて、なんだか可哀想…
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