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「うぅっ……」

余の胸から、赤く生温かいものが噴き出す。
押さえた指の間から、溢れるように流れ出る。
その感触がどこかまだ信じられないが、体がよろめき、余は、その場にがっくりと膝を着いた。



「……意外だわ。
あなたが、この子を護るなんて…」

血飛沫を受け、顔を赤く染めたアンジェラは、そう言って満足したように微笑む。
引き抜かれた短刀も、根元まで真っ赤だ。



「頼む…この子だけは……」

そんなことを言う自分自身が不思議でならなかった。
ただ野心のためだけに作った子のはずだった。
魔力がない子等、何の価値もない。
それなのに、なぜ余は……



自分の気持ちが理解出来なかった。



痛みの中…ふと、頭に浮かんだのは、オズワルドが生まれた時のこと…
顔をくしゃくしゃにして大きな声で産声を上げるオズワルドに、なぜだか余の胸は熱くなった…



おぼつかない足取りで初めて立った日…
余のことを「父上」と呼んだあの日…
小さな手で、余のために花を摘んで来てくれた日のこと…
オズワルドの記憶が、次々と脳裏をかすめる。



余は、オズワルドを愛していたのだろうか?
それとも、ただ、魔力のために大切にしていただけのことなんだろうか?



「王妃……余は……余は……」



言いたかった言葉は何だったのか…
それがわからないまま、余の意識は遠のいてゆき…
口惜しい程に呆気なく、余はこの世を去った。



(さらば…オズワルド…
さらば……)



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