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男性は、何も言わず振り返りもせず、ただ黙々と歩いて行って…
お城の中に入ると、ランプのようなものに火を点けた。



多分、ここはあの世とこの世の境目の世界なんだと思う。
この人も、きっと、私と同じように病気かなにかで死にかけてるんだろう。
だから、私の日本語が通じるんだ。
テレパシーみたいなものなんだろうな。
そっか、あの世では、きっと国籍なんて関係ないんだ。
それか、パパが一応カトリックだから、こういう西洋風の世界に来ちゃったんじゃないかな。



男性は、お城の中を良く知ってるみたいで、迷うような素振りは全くない。
しばらく歩くと、男性は扉を開け、壁のランプに火を灯した。
ほのかな明かりに照らし出されたその部屋は、どうやらキッチンみたいな部屋だった。



「食べるものは分けてやるが、その代わり、君も料理を手伝え。」

「は、はい。」



はいとは言ったものの、料理はあんまりしたことがない。
卵焼きくらいなら、なんとか出来るけど…



「きゃっ!」



男性が袋の中から取り出したのは、鳥の死体。
まさか、これをさばけって言うんじゃないでしょうね?
無理、無理!そんなの絶対無理だから!
私は部屋の片隅に逃げた。



「……どうした?」

「わ、私…ちょっと気分が……」

「それなら、どこかで休んでいろ。
準備が出来たら、呼ぶから。」

「……はい。」

私はそそくさとキッチンを後にした。
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