「殺します。あのサングラス男絶対殺します」

 スマートフォンの画面に映し出された心無い言葉を笑顔で見ながら波瑠は宣言した。
 超能力者の治療を専門に行う国立病院に彼女と仲間たちはいた。メディアへの宣戦布告を目的としていたらしい兎の足はあれからすぐに撤退した。お陰で命が助かったと言えばそうなのだが、能力者たちは辛酸を舐めることとなった。
 意識を失う前に彼女が危惧したとおり、目を覚ました後で能力者たちを待っていたのは超能力者に対する悪意の塊だった。
 公共の電波を使ってテロリストが声高に超能力者排除の宣言をしたことは恐ろしい速さで民衆に伝わった。その場に国が誇るレベル7が勢揃いしたこともいつの間にか漏らされ、本来そのような事態を防ぐために派遣されていた接触感応能力者の波瑠が役割を果たしていない、と叩かれることは容易に想像できた。

「Twitterなんてわざわざ見なくても良いでしょうが」
「ついつい見てしまう……。っていうか瀕死のわたしがあいつらの身元を掴んだことは報道されないの…? わたし自己顕示欲高いから評価されないとアークやめたくなっちゃうんだけど……」

 波瑠の手からスマホを取り上げて、自身の能力で信二はTwitterのコメントを消していく。ついでに健全なことしか呟けないように設定を書き換えておいた。

「てか目覚めたなら報告行きますよ。あんたの決死の行動も中身が無いと評価されないでしょ」
「もーー、厳しいんだ信二。でもいいよ、怪我しながらわたしのこと背負って逃げてくれたもんね。そのときわたしの胸のカップを想像する余裕があったことにもちょっと驚くけど、感謝してるよ。D65だよ」
「どさくさに紛れて人の心読んでんじゃねーーよ!!」

 あはは、と笑いながら波瑠は傍にあった杖をついて立ちあがる。頭には治療用の電極が刺さったままで、それが痛々しい。

「秀明は?」
「あいつは能力の使い過ぎでまだぶっ倒れてます」
「そっか」

 肩を落とした波瑠の背中を叩いて、二人は病室を後にする。


「兎の足、通称ラビットフットたちは超能力者の排除を目論むテロリスト集団です。今回襲撃に来た三人はラビットフットのリーダーが拾って育てた孤児のようです。リーダーに関する情報は、記憶にロックが掛かっていて読めませんでした。すみません……」

 病院の会議室を利用して、淡々と説明が行われる。波瑠を中心にその周りにはアークの職員や今回の任務に参加したチームのメンバーが集まっていた。
「よう、向井。潤さんは?」
 見知った顔を見つけた信二は近くによって席に座る。擦り傷や火傷で包帯を巻いていたものの、動けない程の怪我ではなさそうだった。
 秀明のように大きなダメージが残っている者も当然ながらいるわけで、リヴァイアサンからは太陽一人が参加していた。太陽は信二の声かけに不満そうに返す。

「怪我は大したこと無いけど、精密検査だとよ」
「まあお前が近くにいたら早々怪我も無いよな」

 同い年でレベル5の能力者である太陽のことを信二は認めているのだ。何せ、潤と二人きりでアーク最強まで上り詰めた能力者だ。瞬間移動は強力だ。本来ならば、戦闘能力の無い波瑠の相方は移動に秀でた能力者であるべきではないのか。未だ目を覚まさない友人のことを考えながら、信二は思案する。

「そうでもねえよ。今回はうちの読みが浅すぎた。ハウンドの轟なんて火傷で暫く現場に出られないって話だぜ」

 だから梓だけの参加なのか。彼女も顔や腕に包帯を巻いている。テロリストに怒りを感じているのは一目瞭然だった。彼女の髪は静電気を帯びて浮き上がり、眼は能力の無意識使用により深紅に染まっている。

「まず、超感覚の能力者たちを騙した犯人です。
 御幸一也。年齢は18歳。国外の施設で育ったのか、日本国内にデータは残っていません。彼の能力は<空間偽証>相手の脳に干渉して、錯覚を見せることができるようです。そしてこの能力は非常に範囲が広い。今回は火力発電所全体が彼の能力下にありました」

 厄介な能力者が出てきたもんだ、と太陽が舌打ちした。
 何より、範囲が広い上発動条件が不明となれば、彼が現れる場所は接触感応能力者たちの助力は殆ど見込めなくなる。おまけに、信二が身をもって体験したことだが、彼はただの能力者ではない。戦闘能力も軍人並みに鍛えられているのだ。恐らく、ほかの二人についても同様だろう。

「次に、真田俊平。同じく18歳。彼についてもデータは殆どありませんが、どうやら海外のマフィアと繋がりを持っているようでした。これについては足取りを掴むきっかけになると思います。能力は<物体変化>身体を液体や気体に変化させるだけではなく、触れた物についても変化させることができた、とハウンドから報告が上がっているようです」

 バキィ! 恐ろしい音がして、横を向けば、ホワイトボードに貼られた俊平の写真に折れたボールペンが突き刺さっていた。攻撃が誰によって行われたのかは一目瞭然だ。怒りを抑えきれなかった梓がボールペンを自らの握力で真っ二つに折り、その片割れが念動力で写真の額を穿ったのだ。
 説明していた波瑠が悲鳴を上げる。

「絶対殺す、あのクソ男……」

 地獄の底から引き出されたかのような梓の声に、思わず信二と太陽も言葉を失った。

「つ、つ、続けますね。最後に、成宮鳴。彼は日本国内の生まれのようです。幼稚園までは都内に住んでいた記憶が読み取れましたが、そのあとはまたロックがかかっています。彼の能力については謎が多く、恐らく<念動能力>を主とした複合能力者であると推測されます。そして、特筆すべきは……。彼等三人とも先天的な超能力者ではないということです」

「は!?」

 思わず声を出してしまった。それはあの場にいたメンバーも同じ感想を抱いたらしく、梓も太陽も前のめりになって波瑠を問い詰めるような視線を向けた。

「わ、わたしもビックリしたんだよ。計測しなくても、あのレベルの能力者は中々いない。大凡で見積もっても5から7以上の能力だったから……。でも、彼らはあくまで無能力者です。身体に何かしらの薬物投与、もしくは機械を埋め込むことであれだけの能力を身に着けている、という解釈になるかと」

 能力の凄まじさからすると想像しにくいことではあったが、ラビットフットの行動理念からすれば納得できた。超能力者の排除を掲げる奴等がわざわざ超能力者を雇う必要性が無い。

「だから、肉体は過度な不可に耐えられないはずで、あのまま能力を使用していれば何年かで死んでしまうはずですね。あ、いやそれはわたしたちも一緒なのであんまり関係ないか」
「柏谷、聞かれたこと以外は答えるな」
「す、すみませんっ!」

 研究者の一人が制止の声をかけた。
 どうやら波瑠が見えたのはここまでらしい。信二が気絶させてからも能力は解放されていたらしく、目覚めた後に彼らに関しての情報が残っていたのは行幸であった。


***



「あのチャラ男、四肢爆散させて殺すわ」

 精密検査から返ってきた潤の第一声だった。
 その美貌からは想像できないほど恐ろしい顔で中指を立てる姿に太陽は溜息を付き、梓と波瑠は笑顔で同意する。
 レベル7としてのプライドをへし折られた彼女たちは復讐を誓っていた。しかも、聞けば純粋な能力者ではないそうではないか。能力者には、能力者なりの苦労がある。能力だけを振りかざして『一般人』面する彼らの振る舞いには少なからず腹を立てていたところなのだ。

「馬鹿正直にアジトでも構えてくれてば近くの山でも落下させてやるのになあ。波瑠ちゃん、そんな情報は入ってないよね?」
「流石に入ってないかな……」
「それより、愚か者たちが煽動されてテロリストに加担する未来が見え見えなのよね」
「あはは、それは、あるね。テレビも連日成宮の報道ばっかりで、能力者擁護のコメンテーターも出てこれなくなっちゃった」
「無能力者も、軽能力者も、楽でいいわよね。妬んで、僻んでりゃ誰かがなんとかしてくれるんだから」
「私たちのことを、使い捨ての道具だと思ってるなら、後悔させてやる。雷市くんも、私も、自分の意思で動いてるんだから……道具なんかじゃない」

 使いにくい道具ではあるだろう、と波瑠は俯く二人を見つめて思った。桁外れの能力を持って生まれ、人の為に尽くして来た彼女たちのことを誰もが認めている。けれども彼女たちを”使用する”人々はまた違う。いつか裏切られることを恐れて、ご機嫌取りに躍起になっている。彼女たちもまた、お人形であることを求められているのがわからない年頃でもない。

「……あ、結局、勝負ってどうなったかな?」
「波瑠」
「波瑠ちゃん」
「はいっ」
「空気を読め、空気を」
「えっ!? 人の思考は読めても空気は読めない……」



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