「餃子の醍醐味って、誰かと一緒に餡を詰め込むところだよね」
家に帰ればダイニングテーブルの上には大きなボウルと水の入った小皿、それから大きな皿が二枚並べられていた。
「今日は餃子なんだな」
餃子は彼女の好物だ。俺の帰りを心待ちにしていた彼女の声は弾んで聞こえる。
「そうだよ。さ、手洗って!」
ボウルの中身を覗き込めば、練った挽肉の中にニラや玉ねぎ、キャベツに春雨と細かく刻まれた具材が混ぜられている。俺が着替えて手を洗っている間に、彼女はスプーンを準備していた。
席につけば正面に餃子の皮が置かれた。
彼女の中では、餃子は誰かと一緒に包むもの、らしい。
御馳走と言えば餃子だし、学生の頃は餃子パーティーをした、と餃子奉行を名乗る彼女はスプーンに餡を山盛りにして餃子の皮に乗せている。
「きみの家では春雨を入れるんだな」
「あれ、天喰家は入れないの? 美味しいよ、春雨」
彼女の家では餃子に春雨を入れるらしい。別に嫌いじゃないし、そこまで風味は変わらないだろうが、短く切った春雨が皮の隙間から飛び出してくるのが扱いにくい。
「料理って、その人が育った環境がちょっとわかって面白いよね。お家の餃子は何入ってるの?」
「ええと……。ひき肉に、キャベツと、ニラと、ネギかな。意外と覚えていない……」
「天喰家の餃子も食べたいなあ。今度ねじれちゃんたちも呼んで餃子パーティーやろうよ。揚げたり茹でたり焼いたりするの! 絶対楽しいよ」
同意すると彼女は嬉しそうに笑った。彼女はいつでも明るくて朗らかだから、俺はつい甘えてしまう。
欲しい言葉を、求めている時に与えてくれるのだ。
本当に、俺の手綱を持つのが上手なのだと思う。彼女の前では、少しだけ自分がましな人間のように思えるのだ。
もっと、彼女に感謝を伝えられたらいいのに。
感情を表現することに長けた彼女の言葉は、俺を幸福にしてくれるというのに、俺の言葉は卑屈で、足りない。
「環くんって器用だよね」
気づけば下唇を噛みしめたまま黙々と餃子の餡を詰めていた。皿の上には餃子が着々と並んでいる。
彼女に声をかけられて顔を上げれば、丁度彼女の作った餃子が視界に入った。
「そうかな。…………ふふっ」
「え、なに?」彼女が驚いて手を止めた。
「いや、なんでもない」
思わず笑ってしまった。彼女の皿に乗っている餃子は餡が目一杯詰められて今にも破裂しそうだった。ひだが申し訳程度に折られているのもまた笑いを誘った。
「いや笑ってるじゃん! なんなの!」
「ごめん。ふふ、餃子、すぐ満腹になりそうだ」
「ちょっと巨大なだけじゃん」
頬を膨らませた彼女は掌に丸々と太った餃子を乗せては真剣に睨みつけている。
「あ、これはねえ、ほら、環くんへの気持ちだよね。そう思うと可愛く見えるでしょ? 焼くのは大変だけど……」
今考えたんだろうなあ、と思った。けれども彼女の料理はいつも具が沢山入っていて、量が多めだ。それを愛情だと言われてしまえば俺は文句の一つも出てこない。
「そうか」
「そうだよ」
そう言われたら、自分の餃子はなんだか感情が込め足りないような気がしてくる。
必要なのは思い切りなのだろうか。
「……環くん! はみ出してる! はみ出してるよ!」
「ああっ……君への気持ちが……」
「えーー! 零さないで!」
自分でも現金な男だと思う。慣れないことをしようとするから餃子の端からは春雨が飛び出してしまっていた。ひだをつける余裕も無い。
子どもみたいに手をベタベタにして、俺たちは不格好な餃子を量産した。結果、皿からはみ出す程の大量の餃子が完成した。圧巻だ。5人分はある。
皿の上の餃子を見つめて、彼女は頬杖をついた。
「……あ、愛が重い女だって思った?」
目線を逸らす彼女が可愛らしくて、俺は彼女が喜んでくれるような言葉を探す。
重いなんて思わないよ。俺が全部食べたっていいんだ。
でも、この幸せを独り占めするのは勿体ない。
「餃子パーティー、しようか。ミリオと波動さんにも声をかけて、焼いたり揚げたり茹でたりするんだ」
「それ、最高のアイディアじゃない?」
「ああ」
顔を見合わせて、噴き出すように笑った。
「……あのさ、二人が来る前に。キスしてもいいかな」
「どうぞ。餃子食べる前だからね」
目を閉じた彼女は少し微笑んでいて、柔らかい唇にそっと自分の唇を重ねる。
この幸せな日々に、終わりが来ませんように。
<永遠を希う>
2019
***
夢箱無配ペーパーの中身でした。
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