教え子たちと別れて、相澤と塵炭は慣れた様子でホテルに入る。ネオンの眩いホテル街の入口、ビジネスホテルと変わらないような顔をして佇む近代的な装いのファッションホテルはふたりが仕事の都合でよく利用する場所であった。今更恥ずかしがるのもおかしな話だろうと、自ら好みの部屋を選んだ塵炭の後ろについて廊下を進んだ。
 普段よりも一ランク上の部屋を選択する辺りに彼女が普段隠そうとする女性らしさを感じてしまい、相澤は部屋に繋がるドアを開けて早々に歪む口元を抑えるのに必死になった。

 荷物を置いて早々、シャワーをどちらが先に使うかを問われたので、特段先に使う理由も無いと塵炭に譲れば彼女はにこりと微笑んで「それじゃあ、お先に」と軽やかにバスルームへ向かった。待ち時間にテレビを付けて番組を回せばバラエティ番組やニュースの合間に画面一面に肌色が溢れる。画面の中の女優は随分と若く見えたが、日頃学生たちと触れ合っているからか、ちっとも興奮に繋がらないのだから呆れる。艶めかしく身体をくねらせる女優は美人だったが、塵炭の方が色白で良い顔をする、とまで考えて阿呆らしいほど自分が塵炭に夢中であることを自覚してしまうのだから、仕様もない。
「はい、シャワー浴びましたにゃ。お次どうぞ」
「どうも。一緒に入らなくてよかったのか?」
「若い子たちならラブホも新鮮で、一緒にお風呂入ってキャイキャイやったのかもしれにゃいけど、そこまで若くもないしねえ? さっさと入ってきてよ」
 相澤の下らない思考を丁度良く切って、バスルームから塵炭が出てきた。裸にタオルを巻きつけただけの彼女から爽やかなシャンプーの香りが漂う。すれ違い様に腕を引いて濡れた額に口づければ、塵炭が「待ちきれないの?」と目を丸くした。本音を言えば、彼女の言うとおりであった。けれどももう若くも無いというのに眼前の恋人に対する情欲を隠せないというのも気恥ずかしく、身体を離してバスルームへ向かった。渋々だということは相澤の表情を見れば歴然で、塵炭は恋人の可愛らしい一面を見ては愛しくて、身体がむず痒くなるのだった。



「――なあ、今日、多少激しくしていいか」
 もう少しゆっくり入ってきたら良かったのに。塵炭は浮かんだ言葉を喉で留め置いた。
「いいよ」
 ぴくり、と自身の耳の上に生えた猫の耳が意識せずに動いたのが分かった。待ち遠しかったのは自分も同じだったから、髪も乾かさず、身体を湿らせたまま自分の肩を掴んでベッドに押し倒してくる相澤を拒む理由などひとつも無かった。
 唇を重ねて、間髪入れずに舌が捻じ込まれる。柔らかく、温かい粘膜が触れ合う感触に塵炭は両足を擦り合わせた。大きな手が頬を撫でる。彫刻のように白い肌に浮き上がる鎖骨の上に、はたりはたりと温い水滴が落ちた。その感覚すらも快感に繋がるのだから、全く単純な身体だ。相澤から与えられるものならなんだって、都合よく受け止めてしまえる自分がいる。それを相手も分かっているのだから性質が悪い。
「――は、ぁ。ね、下も、さわって……」
「欲しがり、だな」
「……知ってる、癖に」
「ああ……、そうだったな」
 蕩けるような塵炭の射干玉の瞳から視線を離さず、相澤は濡れた前髪をかきあげて笑った。自分自身を嘲るようなその笑い方に、塵炭の腹の奥がじわりと疼く。彼女が何かを欲しがる相手など、一人しかいない。誰かに甘えることも、頼ることも得意では無いことを、とっくに見抜かれていた。だからこそ相澤は手を差し伸べるなんて無様な真似はしない。ただ、隣に並ぶ彼女に貸す背中だけは常に空けているのだ。その不器用な優しさを、塵炭は愛していた。
 武骨で乾いた指が塵炭の太腿を撫ぜた。焦らすように指の腹で腿の内側に触れていく。擽ったいような痺れるような感覚に、塵炭が目を細める。このあとに与えられる快感を知っているから、待ち遠しくて堪らない。下着を付けていなくてよかった、と塵炭は自分の濡れた足の間から意識を外す。
 けれども相澤がそれを見逃すことはなかった。尻まで伝う愛液を指ですくい上げて、透明な粘液に濡れた指を塵炭の前で開閉して見せる。
「ちょ、バカ……」
「はは、悪い悪い」
 焦らし過ぎたな、と独り言ちた相澤の指が入口をなぞって、そのまま挿入される。
「んっ、く、ぁ!」
 長い指を手前側に曲げられて、陰核の裏側をやわやわと押されれば膝が笑い出す。塵炭の身体の一番気持ち良い場所を知っているのは、自分自身ではなく相澤だ。すっかりナカも彼の形にされているのだろう。だから、今かいまかと身体が彼の身体を待っている。
「……好きなだけ声出せよ」
 口内に唾液を溜めて、塵炭の足を高く持ち上げる。眩しいほどに白い柔肌と、自分を待ち望むかのようにひくりひくりと開閉する陰部は艶めかしいなんてものでは無い。赤く膨れる陰核に吸い付けば、頭上から悲鳴に似た嬌声があがった。
 何度抱いても、抱き足りないと思う程に塵炭の反応は相澤を夢中にさせる。普段はハスキーで落ち着いた彼女の声が、掠れて甘みを帯びて甲高くなるのが堪らない。頬紅を塗ったように染まる頬が、涙を浮かべて蕩ける漆黒の瞳が、シーツの上に広がる艶やかな黒髪が、相澤を掴んで離さない。彼女の外側も内側も、自分のために存在するかのようだ。
 それは、自惚れすぎというやつだろうか。
「は、ぁっ、しょ、ぉ、た……は、ァ!あ、きも、ち、い……っ、ぁ、そこ、っ…んっ、ん!」
 舌で舐め上げて、指を増やすたびにナカから溢れ出てくる愛液は尽きることが無いのか、彼女の身体が自分のことを歓迎しているかのようで、相澤は少しだけ強く陰核を吸い上げた。
 塵炭の身体がひと際大きく震えて、それから緩やかに力が抜ける。そろそろ自身も限界が近付いてきた。はやく一つになりたくて、先端からはみっともなく欲望が滲んでいる。
「ね、……はや、く……、消太の、ちょうだいよお……」
 はあ、と深く溜息をついて見ても、事態はちっとも好転しやしなかった。落ち着くどころか、身体中の血液が下半身に集まっていく。全く、いつになっても彼女には敵わない。
「覚悟しろよ……」
 返事の代わりに頭に着いた猫の耳が動いた。猫は、夜行性なのだったか。
 深夜、盛りのついた猫の嬌声を聞いたときのことをぼんやりと思い出しながら、彼女のナカに腰を沈めた。

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