ホーリーロード決勝から約2週間が経った。
目まぐるしいテレビや雑誌の取材ラッシュもやっと落ち着き、掲示板の校内新聞は更新され、雷門イレブンにようやく以前の──以前よりも、平和な日常が戻ってくる。
それ≠ェ起きたのは、そんな折だった。
「よいしょ……っと」
腕からずり落ちかけたノートの山を抱え直し、輝は覚束無い足取りで職員室へ続く廊下を歩いていた。
視界の半分を遮るこのノートの山は、昼休みまでに提出するように頼まれた現国の宿題である。
日直である以上その日の雑用を頼まれるのは仕方のないこと。けれど、『一緒に運ぶよ』と申し出てくれたもう1人の日直──自分より華奢で小柄な女の子の申し出をついつい断ってしまったのは少し失敗だったかもしれない、と輝は10分前の自分の行動を責めた。
「せ、先生〜……宿題のノート、持ってきました……!」
「お、影山。ありがとうな」
肩を隙間に捩じ込むようにしてどうにか引き戸を開け、職員室に入った輝はやっとの思いで現国教師の元へ辿り着く。
教師は草臥れた様子の輝に苦笑してお疲れ、と労うと早速中身のチェックを始めた。
「教室に戻るついでに、次の授業で使う教材を一つ持っていってくれないか? ほら、あそこに紙の束があるだろう」
「あ、はい。分かりました」
素直に頷いて、輝はプリンターの上に積んである課題であろうプリントを手に取った。これなら片手で持つに足りるし、視界を遮るようなこともないだろう。
プリントを小脇に抱えて、教室に戻ろうとしたその時だった。
「──うん、記入漏れはないな。じゃあ、次はこっちの書類に目を通しておいてくれ」
「分かりました」
業務用プリンターの隣には、大きな衝立を間に隔て教師たちが利用する資料棚が置いてある。その傍らにはローテーブルと向かい合った小さなソファがあり、ちょっとした会議が出来る仕様だ。
その衝立の向こうから、聞き覚えのある声が聞こえてくる。
輝は思わず立ち止まり、衝立越しに僅かに見える資料棚を見上げた。
「言葉の方は大丈夫なのか? 鷹栖の成績的にそこまで問題はないとは思うが……」
「若干の不安はありますけど……イタリア語よりは楽かなって」
──依織ちゃん?
輝は声の主の正体に思わず目を瞬いた。となると、相手はクラスの担任だろう。
しかし、一体何の話をしているのだろうか。いけないとは分かっているものの、つい話の内容が気になった輝は出口へ向ける足を緩めてしまった。
「まぁ、今回は期間もそれなりに長いし、色々と勝手が違って大変だろうが、留学先でも頑張るんだぞ」
「はい」
ぴたり、と足が完全に止まる。
今、担任は何と言ったか。
硬直する輝は視界の端に、衝立の影から女生徒が1人姿を現したのを確認する。
職員室を出ていく後ろ姿は、確かに依織のもので。
「た、た、大変だ……!!」
はわわ、と血の気の引いた顔で呟いた輝の腕から、抱えたプリントがバサバサと滑り落ちていった。
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「サッカー教育プログラム=H」
「ああ、そうだ」
時間は過ぎ去り、その日の放課後。
席に着いて今しがた円堂から聞いたばかりの言葉を反復するのは、先週無事退院しようやく軽く走れるほどに回復した神童である。
「簡単に言えば、今までサッカーを教わる機会のなかった全国の施設へ各学校から選手を1人選出して、その技術を教えようっていう企画だな。豪炎寺が立ち上げたんだ」
「豪炎寺さんが?」
その名前を聞いた途端、天馬の表情がパッと輝いた。
聖帝の座を降りた現在、豪炎寺は新しく設立し直されたサッカー協会の会長である響木の右腕として働いている。
元々このプログラムは以前から密かに計画されていたもので、フィフスセクターの解散を機に大々的に実施されることになったそうだ。
「期間は再来週から約2ヶ月間。雷門からは、夏──理事長の勧めもあって、天馬。お前を選出したいと思ってる」
「えっ……お、俺ですか!?」
ぱちくりと目をしばたいた天馬はまさか自分が指名されるなど夢にも思っていなかったのだろう、目を丸くして大きな声を上げる。
すごいじゃん天馬、と輝く目でこちらを見上げてくる信助に曖昧に笑って、天馬は眉を下げた。
「でも、俺に出来るでしょうか……」
「キャプテンまでやっといて、今更何怖じ気付いてんだよ」
俯いた後頭部に後ろの席から茶々を入れるのは倉間だ。その左右で浜野や速水がうんうんと頻りに頷いている。
だけど、とそれでも言い淀む天馬に、「やってみたらどうだ?」と神童が振り向いた。
「神童先輩……」
「天馬はいつもように、サッカーの楽しさをみんなに伝えて広めれば良いんだ。それに、教える側に回ることで見えてくることもあるだろう」
それに、と彼は穏やかな笑みを向けて続ける。
フィフスセクターは元を正せば、サッカーを学ぶ機会を奪われた子供たちへの救済措置として作られた組織だ。
目的と手段を取り違えたあの組織は早い内から間違った方向へ舵を切ってしまったが、その過ちに苦しめられた自分たちが救う側になれば、きっと同じ悲劇は起きないだろう。
少しずつで良い。上達することの楽しさ、勝つことの喜び、負けることの悔しさ、上手く行かないことへの悲しさ。その全てを知った者が正しく伝えていくことが出来れば、きっとサッカー界の未来はもっと明るいものになる。
ややあって、天馬はゆっくりと頷いた。
「──分かりました。俺、やってみます!」
「よし、その意気だ!」
先方には俺が話を通しておくから──と簡単な説明を済ませ、円堂の話は今日の練習メニューのことへと切り替わる。
それを耳に入れながら、輝はちらりと前の席で頬杖を突く依織の後頭部を見た。
もしかしたら留学の件はその育成プログラムの一貫なのかも──一瞬そう思ったが、この流れからするとやはり違うらしい。
これとは全く関係のないところで、依織は雷門イレブンを離れようとしている。どれほどかは分からないが、かなりの長い期間を。
円堂や春奈がそれに触れる気配はない。もしかすると秘密裏に進めている計画なのか、はたまた出発する日まで仲間には言わないように依織が口止めしているのか。
真意のほどは分からないが、果たして自分はどう出るべきか。
練習が始まってもずっとその事で頭を悩ませていた輝は、ホイッスルが鳴りそれでは解散となった頃、思い切って──依織を除く友人たちを呼び止めた。
「ね、ねぇ! 話があるんだけど──……」
輝に呼び止められた1年生たちが額を寄せ合い集まったセカンドチームの部室。
声を落として慎重に告げられた話の内容に、次の瞬間機械仕掛けの扉がビリビリと振動せんばかりの大声が響き渡る。
「ええええっ!?」
「り、留学ぅ!?」
「こ、声が大きいよ!」剣城を除き全員が挙って上げた驚愕の声に、それを諌める輝の声も釣られて大きくなった。
一方で切れ長の目を見開くだけにリアクションを留めた剣城は、それで、と怪訝な顔付きで話の続きを促す。
「その話、確かなのか?」
「うん……長い期間になる、って話してるのも聞こえたよ」
「イタリアの時は確か2週間だったっけ……」
唇を指で押さえ、葵が難しい顔で唸る。元々依織がイタリアに渡った2週間は、ライセンスを取るための最低限の期間だ。何が理由かは分からないが、きちんとした手続きを取った留学となると、たった2週間で帰ってくるとは到底思えない。
「錦先輩は、確か半年くらい留学してたんだよね?」
「でも留学って、何年掛かりで行くこともあるよな……」
思い出したように尋ねた信助や思案げに言った狩屋に、天馬は呆然として「はんとし、」と呟いた。
当の依織は教室に用があるから、と一足先に部室を後にしているため、真偽を答える人間はここにはいない。
半年、もしくはそれ以上の長い間、依織とサッカーが出来なくなる。下手すると1年、もしかしたら卒業間際まで戻ってこないのかもしれない。
そう考えると、いてもたってもいられなくなって天馬は思わず立ち上がる。
けれど、それより早く動いたのは剣城だった。
「つ、剣城くん!?」
「あいつ、多分まだ教室にいるだろ。……確認してくる」
「ちょ……行動早ッ!」
鞄を引っ掴み、ツカツカと靴の音を響かせて歩いていく剣城を、一同は慌てて追いかける。
足を緩めぬまま、剣城は小走りに追いかけてくる天馬たちを肩越しに振り向いた。
「鷹栖のことだ、全員で詰め寄ると本音を話さないかもしれない。だからお前らはしばらく影に隠れてろ」
「う、うん……!」
「依織の本音、しっかり聞き出してね剣城くん!」
肩を怒らせる葵は既に少し涙目である。
教室の見える場所まで辿り着くと、剣城はそこで止まれ、と天馬たちに合図をして1人意を決し教室へ足を踏み入れた。
「──鷹栖」
「ん……剣城?」
依織はやはりまだ教室に残っていた。自分の席で何かの書類を眺めていた彼女は、無意識だろうか、それを裏返しに伏せて剣城の方を振り返る。
「何、忘れ物?」
「いや……」
言い淀む剣城を、依織は椅子に座ったまま不思議そうに見上げてくる。
先程まで真偽を確かめるのだと意気込んでいたのに、いざ本人を目の前にすると口が動かない。言いたいこと、確かめたいことはたった1つなのに。
──そもそも、何故自分はこうも必死に真偽を確かめようと躍起になっているのだろう、と剣城は頭に僅かに残った冷静な部分で考える。
天馬たちが知りたがっているから、それもある。サッカー部の大切な仲間だから、と言うのもある。けれど、それだけでは足りない気がするのだ。もっと漠然とした、本能的なものであるかのような。
「(俺は、何で──)」
もう少しで何かに手が届く。そんな感覚に、ゆっくりと口を開いたその時だ。
「あっ」
「!」
ひゅう、と窓の隙間から吹き込んだ風が、彼女の机に伏せられていた1枚の書類を舞い上がらせる。
反射的に宙に浮いたそれを受け止めた剣城の目に、紙面の文字が飛び込んでくる。ぎゅ、と一瞬引き結んだ唇を緩めた剣城は、詰めた息をゆっくりと吐き出した。
「──留学、するのか」
「え?」
海外留学プログラム=B
B5サイズのその紙は、紛れもなく留学に関する重要な書類だった。やっと本来の目的を果たした剣城は、じっと依織の表情を窺う。
「ああ、見えちゃったか」と依織は剣城が白い指先で摘まんだ紙を見て、あっさりと頷いた。
「あー……うん。お父さんが色々と気ィ利かせてくれてさ。少しの間、イギリスでサッカーの勉強することになったんだ」
「……そうか」
今更だよな、と依織は肩を竦めるが、その声にはどこか嬉しさが滲んでいる。
父からは今までずっとサッカーをすることを反対されてきたのだ。それを認められ、後押しまでされるまでになって喜ばないわけがない。
「勤め先の上司の息子さんがさ、サッカーのコーチやってるらしくて。私の話聞いて、良い機会だから是非って言ってくれたんだと」
「ああ……」
受け取った紙の端を弄る依織の頬は、気のせいでなければ少し照れ臭そうに紅潮している。
しかし、何故だろうか。それはきっと喜ばしいことであるはずなのに、剣城は何だか目の前が少し暗くなった気がした。
良かったな、頑張れ。そう伝えたいのに上手く言葉にならない。押し黙った剣城をどう思ったのか、依織は照れを隠すようにへらりとした笑みを向けて言った。
「まぁ2ヶ月くらい、あっと言う間だろ。その間にお前より強くなってやるから、せいぜい覚悟して──」
「……えっ」
「えっ?」
唐突に疑問の声を上げた剣城に、依織も釣られて口をポカンと開ける。
「2ヶ月……?」眉を顰めた剣城と同じような顔になりながら、依織は再度首を傾げた。
「そうだけど……何、剣城。お前もしかして、私が何年も帰って来ないと思ったの?」
「え。あ……いや……」
2ヶ月間。留学の件は本当だったが、その期間は自分たちが予想していたよりも遥かに短かい。
とどのつまり、早とちりだったのだ。
明らかに図星を突かれた顔をする剣城に思わず小さく噴き出した依織は、引き戸の方から何やらごちゃごちゃとした話し声がすることに気付く。
そして彼女は「あ、おい!」とやや慌てた風の剣城の制止も聞かず、そちらに足を向けた。
「2ヶ月なら天馬と同じくらいよね!? も〜……卒業まで戻ってこなかったらどうしようかと……」
「狩屋が何年掛かりとか言うからぁ」
「なっ、も、元はと言えば影山くんが長い期間とか言うからだろ!?」
「えっ、僕!?」
廊下を覗き込むと、支柱に隠れるようにして天馬たちが額を寄せ合っている。ははぁん、と目を細めた依織は廊下へ1歩足を踏み出した。
「そう言うことか、お前ら」
「うわあぁッ!?」
ここまで依織が近付いてきていることに気付かなかったのだろう、彼女が少しばかり声を張り上げると、天馬たちは蜘蛛の子を散らすように方々に逃げ転げる。
「ひでぇ反応だな」と目をすがめ、依織は一番近くにいた天馬を見下ろしてニヤリと笑った。
「そう言うわけだから、天馬。全国行脚してる間に私に置いてかれないように気を付けろよ?」
「も、勿論!」
すっくと立ち上がった天馬は、「俺も頑張るんだから!」と鼻息荒く意気込む。
少しほっとした表情で教室から顔を出した剣城が、ところで、と依織に視線を投げ掛けた。
「その話、もう結構前から決まってたんだろ。それなら何で今日まで何も言わなかったんだ」
「あん? そんなの、決まってんだろ」
こいつらがこうやって煩くなるからだよ──そう答える依織の顔は呆れが混じりながらも少し恥ずかしそうで、要するに気恥ずかしくて言い出せなかったのだろうと剣城は察したのだった。
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それから2週間後。
「せっかくのオフなんだから、みんな休めば良いのに」
「オフだからこそ来てやったんだろ?」
溜め息混じりにぼやく依織に間髪入れず返すのは倉間だ。
時刻は日曜日の午前10時。
雷門イレブンは空港のロビーに私服で勢揃いしていた。今日から全国各地の施設へサッカーを教えに出向く天馬と、結局あの後すぐにチーム全員に留学することが露見してしまった依織を見送るためである。
円堂や春奈は、やはり早い内から留学の件を知らされた上で依織から口止めされていたらしい。水臭いやつだよな、と円堂は笑っていた。
「天馬の乗る便は1時間後だったか?」
「はい!」
「じゃあ、天馬が飛行機に乗る頃には鷹栖はどこかの海の上ってことだ」
「そういうことっすね」
現地に着くのは天馬が先だろうけど、と依織は肩を竦める。海外と日本国内での移動だ、時間に差が開くのは仕方がない。
ぽつぽつと談笑を続けていると、カウンターの方から織乃が「依織ちゃん!」と軽く手を振りながら戻ってきた。
「手続き、終わったよ。名残惜しいかもしれないけど、そろそろ……」
「別に名残惜しくは……」
もにょもにょ言い淀みながらキャリーケースの取っ手を掴む依織の動作は、言葉とは裏腹にほんの少しだけ鈍い。
それじゃ、と依織が踵を返そうとすると、葵が突然「あっ!」と大きな声を上げた。
「な、何だ? どうした?」
「これ! 依織に渡すものがあるの忘れてた!」
「……あ、そうだった!」
そう言って鞄を漁り始めた葵に反応したのは、依織ではなく天馬たち1年生だった。
目をしばたく友人に、「はい!」と葵は鞄からようやく取り出した小さな紙袋を手渡す。
「開けてみて」
「うん……?」
首を傾げつつ、依織はその封を切る。そしてちらりと隙間から中身を確認すると、一瞬目を見開いてそれを掌に開けた。
「葵、これ……」
「イギリスで頑張る依織への餞別だよ」
そう言って、葵はにっこりと笑う。
出てきたのは、海とも空とも言える青のグラデーションが美しい、やや細身のリボンが着いたヘアゴムだった。
「かわいい……」
「へぇ、良いじゃん! 葵が選んだのか?」
「私が、と言うか、1年生みんなで選んで、一番依織に似合いそうなのを買ったんですよ」
称賛する茜や水鳥に、「お守りも兼ねてね!」と葵はぱちんと上手にウインクする。
掌のリボンを呆然と見つめる依織に、天馬も小さく笑いながら言った。
「葵ったら、絶対にプレゼント渡すんだって言って聞かなくてさ。俺には何にもくれなかったのに……」
「だって今まで依織に何かプレゼントしたこと一度もなかったんだし、良い機会じゃない」
それに天馬はお守りとか渡してもすぐ無くしそうだもの、とあっけらかんと答えた葵と、「ひどいなぁ」と唇を尖らせた天馬に仲間たちが笑う。
そんな和やかな空気に反し、依織は少しだけ困ったように眉を下げた。
「ありがとな、葵。でも私にこんな可愛いの、似合わ──」
「似合わないとは言わせないわよ!」
ギロリと下から睨め付けられて、依織は思わず怯んだように後ずさった。葵は依織の反応を見越していたのだろう、ふふんと胸を聳やかし、してやったりと言った風に笑っている。
「私たちが厳選して選んだものですからね。依織がそのリボン着けて帰ってくるの、楽しみに待ってるから!」
「葵〜……」
じと目になった依織にも葵はどこ吹く風だ。やがて溜め息を苦笑に変えて、分かったよ、と依織がそれを鞄にしまうと、タイミングを見計らうように搭乗時間のアナウンスが聞こえてきた。
時間だな、と腕時計を一瞥して呟いた神童が、依織をしっかりと見据える。
「頑張れよ、鷹栖。お前なら、海外の選手とも引けを取らないプレーが出来るはずだ」
「勿論です」
ニヤリと好戦的に口角を上げる依織に、それでこそだ、と神童も満足げに頷く。傍らの織乃に「姉さんも元気で」と小さく声を掛け、依織は今度こそ踵を返した。
「それじゃ──行ってきます!」
「ああ、行ってこい!」
仲間たちに見送られ、依織はエスカレーターを降りていく。
段々と遠ざかって行く背中に、ふいに葵が思い出したかのように声を掛けた。
「依織ー! そのリボン選んだのはねー!」
「空野!」
その叫びは、果たして彼女に聞こえたのだろうか。言い終えるより先に見えなくなってしまった背中に、葵は「行っちゃった」と少し肩を落とす。
「剣城くんが止めなかったら聞こえたかもしれないのに」
「……別に良いだろ、聞こえなくたって」
寸でのところで葵の声を遮った剣城は、苦い顔をした。しかしそれが災いし、仲間たちにはあの青いリボンを誰が選んだのが分かってしまったようで。
「ふーん、あれ選んだの剣城だったのか。ヘェ〜〜?」
「……何ですか、水鳥さん。何が言いたいんですか」
「べっつにぃ?」
なぁ、とニヤニヤ笑う水鳥の隣で、茜がニコニコ笑っている。
その傍らで織乃が何だか生暖かい笑みでこちらを見ていることに気付いて、剣城は更に居心地悪そうに口許を歪めた。
「でも依織ちゃんが言う通り、ちょっと可愛過ぎると思うんだよなぁアレ。やっぱり俺の選んだTシャツの方が……」
「いやぁ、狩屋のセンスじゃちょっと」
「うん……」
「どういう意味だよぉ!?」
顔を見合わせる信助や輝に、必死の形相の狩屋が突っ掛かっていく。
苦笑混じりにそれを眺めて、天馬は未だ不機嫌そうに口を尖らせている剣城を見上げた。
「大丈夫だよ、剣城。あんなこと言ってたけど依織、すごく喜んでたから。ね、葵?」
「うん!」
「俺は別に……何も……」
つんと顔を背けてしまった剣城に、天馬と葵は目を見合わせて笑い合う。
明るい笑い声が交差する中、やがてイギリス行きの飛行機は雲1つない真っ青な青空へと飛び立っていった。