それは革命の風が吹く約1年前の出来事。
日差しの麗らかな暖かい日、4月に入って間もないばかりの頃のことだった。
ペタペタと室内サンダルの音を鳴らしやって来た、6年3組の担任教師は教壇の前に立つと、改まった口調で言う。
「──えー、今日からこのクラスに転校生が入ることになった」
一気にざわめいた子供たちを「はい、静かに」と慣れた様子で宥めた彼は、開けたままの扉の外へ向かって、入ってきなさいと声を書けた。
一拍空け、教室へ足を踏み込む少女が一人。
長めの髪をやや高い位置で揺らし、どこか感情を潜ませたような瞳で、彼女は同級生たちを一望する。
自己紹介を──チョークを渡された彼女は小さく頷くと、黒板にほんの少し右下がり気味に名前を書いた。
「九州から越してきました、鷹栖依織です。あ〜……えっと。よろしくお願いします」
どこか億劫そうな、気のない挨拶。それでもてんてんばらばらに、しかし元気の良い挨拶が教室の方々から返ってくる。
担任は満足そうに頷くと、教室の後ろの方を指さした。
「席はあそこな。左端の……空野、手ェ上げてやれー」
「はいっ」
その途端、待っていましたと言わんばかりに細い腕が勢い良く天井に向かって伸びる。
手を挙げたショートカットの少女は、依織が隣席に着くなりそわそわしながら椅子ごと体を寄せて来た。
「初めまして、私、空野葵っていうの! ねぇ、依織って名前で呼んでも大丈夫?」
「……呼びやすいように呼んでいいよ。代わりに私も葵って呼ぶし」
「うん!」と元気良く頷いた葵が依織に向かって片手を差し出す。
虚を突かれたように小首を傾げた依織に、葵はにっこりと笑いかけた。
「握手! よろしくね、依織っ」
「……ん。よろしく、葵」
葵は依織と握手を交わすと、ふと彼女の手に古い小傷が幾つかうっすらと残っていることに気が付いた。よくよく見れば、ズボンから伸びる脚の至る箇所にも古傷から生傷まで掠ったような傷が点在している。
「(もしかしたら、何かスポーツでもやってるのかな。天馬とも気が合うかも……)」
1時間目のチャイムが鳴るのを聞きながら、次の休み時間になったら聞いてみよう──と心に決めた葵は、授業を受ける準備を始めたのだった。