1日目
私には遅刻癖がある。
三度のご飯と同じくらいお布団で眠ることが好きだから、というのが一番の原因だと思うのだが、そんな理由で先生が納得するはずもなく。
チャイムよりも後に教室に入ると先生に「またか」と呆れた言葉を掛けられて、チャイムよりも前に教室に入ると、「明日は槍でも降るんじゃないか」と先生は笑う。
だけどそんな日常も、今日で終わりらしい。
「早くしろよ」
「ま、待ってちょっと待って」
よろめきながら靴を履く私の前に仁王立ちするのは同じクラスの緑川くんである。
昨日の放課後、見かねた先生が彼に頼んだそうだ。「あいつが遅刻しないように、朝迎えに行ってやってくれ」と。
聞いた話によると、私は遅刻が多すぎて出席日数に少し響いていたそうだ。義務教育だから出席日数が進級に関わる訳じゃないけど、後々の高校進学には大いに関係がある。
そんな私の運命をうっかり背負ってしまった緑川くんは、トントンと指で腕をたたきながら私を急かす。
やっと家の玄関から出て2人並んで道を歩くと、緑川くんは大きな溜息を吐いた。
「嫌なら断っても良かったのに」
「そんなこと出来るわけ、」
そう言った後、緑川くんはハッと口を噤む。
緑川くんは私のお迎え係が嫌な訳じゃないのだろうか。でも緑川くんは真面目な人だ。一度頼まれたら断ることが出来ない。何だか横でブツブツ言っている緑川くんに、私は尋ねた。
「先生、他の人には頼まなかったの?」
「それは俺が……」
そこまで言って、再び沈黙。緑川くんの顔は少し赤くなっていた。
それは俺が、何だろう。
それは俺が、やりたかったから……とか?
思ったままのことをからかいを含めて言ってみると、緑川くんは耳まで真っ赤になった。
「そっ……そんなわけないだろ!!」
叫んで、緑川くんはダッシュで逃亡。流石サッカー部、早い早い。
――ていうか。
「お、置いてかれた」
あまりの勢いにぽかんとしていた私は、慌てて遠離っていく緑川くんの背中を追いかけた。