All must be as God will.
昔々、千年も前のこと。
その島には沢山の人が住み、決して裕福ではないけれど、静かに幸せに暮らしていた。
しかし、ある年のこと。
突然の自然災害が島を襲った。
海は荒れ、田畑は枯れ、人々は飢餓に苦しむ日々を強いられることになる。
そして、またある年のこと。
一人の少女が、海へ向かってこう言った。
─神様、神様。どうか島をお救いください。
代わりに、私の命を差し上げます。どうか、どうか。
彼女は涙を流すと、そのまま祈るようにその身を海へ投げた。
すると不思議なことに、荒れていた海は穏やかになり、優しい雨が乾いた田畑を潤した。
神は、少女の願いを聞き届けたのだ。
島民は、少女の勇気と犠牲に涙して、彼女を称える大きな遺跡を作った。
未来永劫、少女が神と共にこの島を見守ってくれるよう、願いを込めて─
「─白竜?」
ふいに真後ろから聞こえた声に、白竜はハッと顔を上げた。
振り返ると、つい先日仲間になったばかりの少年─シュウが、こちらを窺っている。
「珍しいね、君が資料室にいるなんて。何か調べもの?」
「ああ、いや…調べるというほどでもないが」
手にした古ぼけた文献を、白竜は何となしにシュウへ寄越した。
それをパラパラと捲ったシュウは、不機嫌そうに眉根を寄せる。
「ああ、これか…」
「何だ、知ってるのか」
「まぁね。すごく、古い話だよ」
乱雑に資料が置かれた机にそれを伏せ、シュウは溜め息を吐くように答えた。
「数百年前に廃れた儀式の─その前身になった出来事さ」
「…? これのことか」
白竜は本棚からまた新しい文献を取り出した。
シュウは忌々しいものを見るような目付きになりながら、頷く。
彼が手に取ったのは、数百年程前まで、このゴッドエデンで人身御供の儀式が執り行われていたことを示した文献だった。
「その少女が海へ身を投げなければ、それが儀式になることもなかったんだ。皮肉な話だね」
「それは、そうだが」
白竜は文献の埃にまみれた表紙をなぞり、宙を見る。
そんな彼を不思議がるように、シュウは首を傾げた。
「─その少女とやらも、自分がしたことがそんな風になるなんて思わなかっただろうな」
「……そうだね」
「なぁ、シュウ」
「ん?」
ぼんやりと、考える。
嵐の間、抜け落ちた数日間のことを。
あの日握りしめられていた花は、今も空き瓶に生けられて彼の自室に置いてあった。
「もしその少女が、儀式のことを知って自分のしたことを悔いていたら…それを、謝罪してきたら」
お前が当事者だったら、どうする。
そんな問いかけにシュウは驚いたように目を丸くすると、数拍空けて首を捻った。
「…そうだね。何にしろ、彼女に悪気はなかったろうし…実際に悪いのは、それを儀式に仕立てた人間や止めなかった者たちだ。…謝ってきたら、仕方ないし、許してあげるよ」
千年も罪悪感に苛まれるのはかわいそうだからね─苦笑するように答えたシュウに、白竜はどこか満足げに頷く。
良かった、と、自分でも分からない安堵感を覚えながら。
「…そういえば、シュウ。何故お前はこの部屋に?」
「ああ、そうだ。君に伝えることがあってさ」
忘れてた、とポンと手を打った後、シュウは柔らかく、底の見えない笑みを浮かべる。
「明日、君のライバルとその仲間たちをこの島に招待≠キるそうだよ」
「何!?」
白竜は目を闘志に輝かせ、勢い良く椅子から立ち上がった。
「なら、こうしてる場合ではないな。行くぞシュウ、特訓だ!!」
「はいはい…」
足音荒く資料室を出ていく白竜を、シュウは呆れたように肩を竦めゆっくりと追いかけていく。
机にぽつんと取り残された文献は、真っ暗になった部屋で静かにその身を横たえていた。