遭遇する



「こりゃあ今日は無理だな」

響木さんの指導の元、いつものようにサッカーの練習をしている最中。突然の夕立に襲われた。しかも、視界が白くぼやけるほどのひどい雨に、だ。
いち早く軒下に入った響木さんは、濡れ鼠になった俺を見下ろして「ご自慢のリーゼントが台無しだな」と笑う。確かに、雨に打たれた俺の髪はへにゃりと崩れて額にくっついていた。

「風邪でも引かれたらたまらん。風呂貸してやるから入れ」
「……はい」



「着替えは持ってるだろう?タオルは勝手に使え」と、響木さんは鍋を定位置に置きながら言う。
途端香ってきた匂いに腹がなりそうになるのを必死に抑えて、俺は階段を登った。店内にはいつも入っているが、上の自宅に行くのは初めてだ。
とりあえず床を濡らさないように足を拭いて、板張りのそこを歩く。

(階段上がって突き当たりを右…だったか)

言われた通りの場所に辿り着き、そこにあった引き戸を開ける。

「ん?」
「………!?」

何か、いた。
何かっつーか、体から湯気を出した素っ裸の女がいた。いや、パンツは穿いてるし上半身は頭から被ったバスタオルで隠れてるから、一概に素っ裸とは言えないのかもしれないが。
とりあえず、そんな感じに限りなく肌色の部分が多い女と目が合った。

特に恥じる様子もなく。考えることを放棄しかけている俺を見て、そいつは引き戸の方を指さす。

「ね、寒いから閉めてくんないかな?」
「う、あ。悪い」

パタンと。引き戸を閉めて、とりあえず一呼吸置く。
そして階下に走った。

「何だ、そんなに慌ててどうしたんだ飛鷹」

ドタバタと忙しない足音を立てて店に入ってきた俺を見て、響木さんが鍋をかき混ぜる手を止める。

「ひ、響木さん。何か風呂場に妙な女が」
「妙とは失礼な」

何で真後ろにいるんだこいつは。
ガタガタと辺りにぶつかりなら後ずさる俺と、タンクトップと短パン(さっきと対して露出率変わんねぇ!)に着替えたあの女を見比べ、響木さんは「ああ」と頷いた。

「言うのを忘れてた。こいつは俺の姪だ」
「……は、……め、姪?」

呆然とオウム返しした俺を見て、響木さんは少し髭を震わせる。

「昨日から、こいつの両親が海外に仕事に行っちまってな。その間預かることになった」
「まぁ、そゆこと」

ポンと俺の背中を叩いて、あいつが笑う。
ていうか、何でこいつは裸(仮)を見られたのにこんな平然としてるんだ。あれか、こいつはもしかして年上なのか。そしたらその辺りも年上の余裕ってことで無理やり片付けられるんだが。

「考えてるとこ悪いけどさ、飛鷹くん。私、君とタメだよ?」

片付けられなかった。

「何で、俺の名前」
「叔父さんから聞いてたの」

にっこり微笑んでそいつが指さすのは、厨房の響木さんだ。
「一応、自己紹介した方が良いのかな?」前置きして、そいつは小首を傾げる。

「私、響木名前。叔父さんはうちの父さんの兄貴。改めてよろしくね、飛鷹くん!」

勝手に俺の手を握ってぶんぶん上下に振るそいつと、目に見えて焦っている俺を見て、響木さんが吹き出しそうに笑いを堪えているのが見えた。