5日目



「おはよう、緑川くん」
「ああ」

靴を履いて玄関前に立っていた緑川くんに声をかける。そのまま、二人並んで道を歩く。朝のお迎えにも慣れてきた私は、もう倒れることもなかった。
緑川くんは相変わらず口を開かずただ黙々と歩いているけど、1日目より大分纏う空気が柔らかくなった気がする。最初はあんなにピリピリしてたのに。何だか少し、その変化に嬉しくなった。

「? 何笑ってるんだよ」
「ん。別に?」

何でもないよ、と誤魔化すと、ちょっと口をとがらせる緑川くん。
……ああそうだ。

「ねぇ、聞きたいことがあるんだけど」
「何?」
「緑川くん、何で私のお迎え係をしようと思ったの?」

ぴたり、と緑川くんの足が止まった。
「先生に聞いたの、昨日」続けると、かぱと開口して赤くなる顔。何だか緑川くんをいじめてるような気持ちになった。

先生曰く。
6日前の放課後、職員室に用事のあった緑川くんは、丁度担任の先生と学年主任の先生の会話を聞いたらしい。
その会話というのが、クラスの生徒──つまり私の遅刻回数が多すぎて困っていると言うことと、それならいっそ誰かに毎日迎えに行かせてはどうかというものだったそうだ。

『朝の迎え? ああ、本当は誰でも良かったんだけどな、緑川が俺がやりますって言うから』

1日目のあの時、緑川くんは私のお迎え係をすることに不満そうな態度を取っていた。
じゃあ何で自分から引き受けたのか。それがどうしても知りたかったのだ。

「ね、どうして?」
「……」

重ねて聞くと、緑川くんは「この鈍感」とか「何で分かんないんだ」とか、ぶつぶつ呟いた。

そして、意を決したといった風に私と向き合う。顔はリンゴみたいに真っ赤だったけど、その目はすごく真剣そのものだった。

「……いいか、名字。一回しか言わないからよく聞けよ」

そう前置きして、そっと耳元で言われた言葉に私は顔がぼわっと熱くなった。
そして次の瞬間、緑川くんはダッシュで逃亡。流石サッカー部、早い早い。
……じゃなくて。

「……言い逃げなんてずるいよ」

とりあえず緑川くんに追いつくことは不可能だし、かと言って教室についてすぐ話しかけるのも恥ずかしいので──そうだな。まずは今日の放課後、一緒に帰ることを提案してみよう。

そうすればきっと、明日になったら、また今までとは少しだけ違う毎日が始まるはずだから。