一心同体


某月某日。
今日も今日とて上官の気合の入った足音で目覚める。次の瞬間には暑苦しい声と戸の勢い良く開く音が響くだろう。

「…あれ?」

「いちこ!起きているか!朝駆けに行くぞ!」

「あ、はい」

戸は開かなかった。多分声の大きさは変わっていないが、戸越しに言われたので耳にも優しい。
拍子抜けというか、逆に驚きだ。やっと分かってくれたか、と着替えながらぼんやり思った。

「今日は戸を開けなかったんですね」

「お前が開けるなと言ったからな」

すでに厩で馬に跨っていた馬超様は、そう得意げに言い放った。
私が女だということに気付いたと言って欲しかったとか、既に何度も開けるなと言っていたのに今更かとか、色々突っ込みたいことはあったが、朝日に照る笑顔を見たら全部どうでもよくなってしまった。やっぱり私はこの方に甘い。

「行くぞ!」

私が馬に乗ったところを見るや、すぐさま駆けて行った。それを一生懸命追いかける私。
地面は数日続いた雨のせいでぬかるむ。馬は踏ん張るように、ぶる、と鼻から強く息をした。

「このような土の状態でも俺について来れるとは、お前も上達したな!」

貴方に付き添っていて上達しない方がすごいとさえ思うのだが。それさえも飲み込んで、ありがとうございます、と言い返した。確かに以前は通常の地面でも馬超様を見失わないよう必死になる程度にしか手綱を握れなかった。

「良い朝だな」

「そうですね」

あっという間にいつもの折り返し地点まで行き着く。冷えた朝の空気が当たり続けていた頬に、太陽の光はとても暖かい。眩しさに目を細めた。
ふと馬超様が同じ方向を見ていないことに気付く。西涼の方角だった。

「お前と一緒なら、どこまでも駆けて行ける気がするな」

それがどういう意図で仰ったことなのか、私は知れない。風になびく色素の薄い後頭部しか見えないから、表情が読み取れないのだった。普通に私の乗馬技術が熟達したことを言っているのだと受け取って、またありがとうございますと言った。

「…戻るぞ!帰ったら朝餉だ!」

「、はい」

こちらを向き直った顔は増して爽やかな表情をされていた。何となくそれに釘付けになってしまい、反応が遅れる。一足遅く手綱を引いた。
やること成すこと尽く真っ直ぐだけど、何を考えておられるのか分からない時もある。でも何故かそこがまたたまらなく面白いとさえ思うのだった。

「たまにはお前と朝餉を摂るのも良かろう!」

馬一頭分離れて駆ける私を振り返って仰った。暑苦しい時間が増えるな、と内心悪態をつくも、ほぼ反射で声を張り上げる。

「そうですね!」

一度前に向き直ったお顔が再びこちらを向く。綺麗に笑っていた。私もつられて笑顔になる。

本当に、私ったら馬超様に甘い。


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